仕事をして、考えて、喋る。それだけで会社の知識が増えていく
文章を書くことが得意でなくても、仕事の背景や判断理由を音声で外へ出し、生成AIで整理すれば、技術継承に使える会社の知識として残せます。当社が実践する、会話からナレッジを育てる流れを紹介します。
当社では最近、技術ノートの記事や社内に残す記録が、かなり速いペースで増えています。
ただ、自分で一つずつ文章を書いているわけではありません。
むしろ私は、文章を一から書けと言われると、それほど得意ではないと思っています。
では、なぜこれだけ文章や記録が増えるのか。
理由は単純です。
仕事をして、考えたことを、生成AIに向かって喋っているからです。
文章を書くより、話した方が早かった
私はもともとよく喋ります。
仕事の指導でも、単に「ここを直して」で終わることはあまりありません。
- なぜそこを確認するのか
- どこに違和感を持ったのか
- 以前どのような失敗があったのか
- 条件が違えば判断はどう変わるのか
そうした背景まで説明することが多くあります。
生成AIとのやり取りも同じです。最初から完成した質問を作るわけではありません。
「こういうことではないか」と話してみる。AIから答えが返ってくる。「いや、少し違う」「もっと実務的にはこうだ」「前に考えたことともつながる」と、また話す。
この繰り返しで、自分の考えが少しずつ整理されていきます。
キーボードで同じ量を入力しようと思えば、かなり時間がかかります。しかし音声なら、頭の中で考えている速度に近い状態で言葉を外へ出せます。
生成AIは、その大量の言葉から論点を整理し、読み返せる文章へ変えることができます。
AIが文章を書いている、だけではない
表面的に見れば、
音声入力をして、AIに文章を書いてもらっている。
という話に見えます。
しかし、実際に外へ出しているのは文章の材料だけではありません。
仕事の背景、判断、迷い、失敗、違和感、仮説、修正した理由まで含まれています。それをAIとの対話によって掘り下げていきます。
すると、一つの会話から複数の形の記録が生まれます。
- 社員への指導であれば、後から確認できる技術ナレッジ
- 自分の判断であれば、将来の仕事に使える記録
- 社内で共有すべき内容であれば、会社の知識
- 社外にも共有できる知見であれば、技術ノート
入口は会話でも、目的に合わせて整理すれば別の形で再利用できます。
当社で起きていることをまとめると、
会話 → 整理 → 保存 → 再利用
という流れになります。
「書いてください」では残らない知識がある
これは技術継承にも関係します。
経験豊富な技術者に「自分のノウハウを文章にしてください」と頼んでも、簡単ではありません。何十年もかけて得た経験を、改めて体系的な文章にするには相当な時間が必要です。
一方で、若手から質問されれば、30分でも1時間でも話せる人はいます。
「ここはこうした方がよい」だけではありません。
「以前、この条件で失敗した」「この場合はここを疑った方がよい」「基準上はこうだが、今回の現場では別の確認が必要だ」
そうした言葉の中に、その人が積み上げてきた経験が入っています。
以前であれば、その会話の多くはその場で消えていました。しかし今は、音声認識と生成AIがあります。
話せるのであれば、文章を書くことが得意でなくても知識を残せます。
これは、生成AIによって変わった大きなことの一つだと思います。
要約すればよいわけではない
一方で、録音してAIに要約させれば、それだけで技術継承になるわけではありません。
当社でも実際に運用する中で、この点を何度も考えてきました。
要約しすぎると、
- なぜその判断をしたのか
- どこで迷ったのか
- 何を危険だと感じたのか
- まだ確認できていないことは何か
- どの条件なら判断が変わるのか
といった重要な情報まで消えてしまうことがあります。
完成した結論だけを残すのであれば、過去の成果品を保存することとあまり変わりません。
技術者として本当に残したいのは、結果だけではなく、
その結果へ至った過程です。
これは設計でも同じです。
完成した図面だけを見ても、なぜその形になったのかは分かりません。採用しなかった案、現場条件、発注者との協議、途中で気付いた問題、失敗して考え直したこと。
そうした過程の積み重ねが、次の仕事で使える経験になります。
残した記録を、次の判断に使える状態へ変える
会話を文字にしただけでは、記録が増えるほど探しにくくなります。
後から使うためには、少なくとも次のような情報も一緒に整理する必要があります。
- いつの記録か
- どの業務やテーマについての話か
- 誰が、どのような立場で判断したか
- 何を根拠にしたか
- 決定事項か、検討途中の案か
- 現在も有効な考え方か
古い基準に基づく判断や、打合せ途中の案が、現在の正解として扱われては困ります。
過去の記録は答えそのものではなく、今回の条件と比較するための材料です。最終的な技術判断は、人が根拠を確認して行います。
この出典と状態まで残すことで、会話は初めて次の仕事に使える会社の知識になります。
録音とAI利用にはルールが必要になる
音声を残す場合には、便利さだけで進めることもできません。
録音する目的を明確にし、関係者へ説明する。保存場所と閲覧できる人を決める。顧客情報や個人情報を、外部のAIサービスへどこまで送ってよいかを決める。公開用の記事へ変えるときは、案件や相手を特定できる情報を取り除く。
こうした運用ルールが必要です。
何でも録音し、何でもAIへ渡すことが目的ではありません。
残す価値のある判断を、安全に、後から使える形へ変える。
そこまで含めて仕組みにすることが大切だと考えています。
話すことが、会社の資産になる
以前であれば、頭の中にどれだけ経験や考えがあっても、それを文章にできなければ会社には残りにくい状態でした。
今は少し状況が違います。
仕事をする
↓
考える
↓
喋る
↓
整理して残す
↓
次の仕事で使う
この流れを作れば、日常の会話の中にある判断や経験が、会社の知識として少しずつ蓄積されていきます。
私は文章を書くためだけにAIを使い始めたわけではありません。仕事で分からないことを聞き、考えを整理し、試すために使ってきました。
ところが、それを続けているうちに、技術ノートが増え、社員指導がナレッジになり、会社の判断が記録として残るようになりました。
後から振り返ると、全部同じところにつながっていました。
仕事をする。考える。喋る。残す。そして、また使う。
生成AIによって変わったのは、文章を書く方法だけではありません。
これまで頭の中や会話の中で消えていた思考を、会社の資産として残せるようになったこと。
私は、その方がずっと大きな変化ではないかと思っています。
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