「これ、どう使うんですか?」――触って初めて出てきた、AIの次の疑問
Markdownを作り始めた社員から出た「これ、どう使うんですか?」という質問。ペット作りからCodexや利用枠を知った出来事も重なり、実際に触ることから始まるAI教育について考えました。
「これ、どう使うんですか?」
社員が自分で作り始めたMarkdownを見ながら、そう聞かれました。
Markdownは、見出しや箇条書きを文字の記号で表せる文書形式です。少し前の技術ノートで、社員自身が仕事をする中で得た経験を、AIとのチャットだけに残すのではなく、こうしたファイルへ残してみたいと書きました。
それから数日後、実際に社員がMarkdownを作り始めました。
作りながら、「どんなふうに使うのか」「使うときのことも考えて作った方がよいのか」という疑問が出てきたそうです。
そこで出てきたのは、書き方ではなく、作った後の使い方についての質問でした。
そのとき、改めて思いました。
私が社員に覚えてほしいのは、Markdownの書き方ではありません。むしろ、この質問が出てきたこと自体が、一つ前へ進んだ証拠なのかもしれません。
私は以前から、AIは仕事だけでなく、私用でもどんどん使ってほしいと社員へ話してきました。旅行でも、料理でも、買い物でも、勉強でも、趣味でも構いません。
8月31日に公開した「Geminiが使える会社で、ChatGPT Businessを全社員に広げてみる」でも、仕事以外での小さな試行が、AIとのやり取りや確認の仕方を覚える土台になるかもしれないと書きました。
その数日後、かなり分かりやすい出来事がありました。
ペットを作りたくて、Codexに触った
ChatGPT Businessを全社員へ広げた頃、ChatGPTのデスクトップアプリに「ペット」という機能があることを知りました。
OpenAIのPets公式ガイドによると、ペットはチャットの作業状況を追うための任意のアニメーション表示です。用意されたペットを選ぶだけでなく、デスクトップアプリで自分のペットを作る操作を選ぶと、専用のスキルを使う新しいチャットが開き、希望を伝えながら作成できます。
そこで私が試しに犬を作ってみました。名前は「こむぎ」です。
それを見た社員も、「自分も作ってみたい」とやり始めました。
ここで面白かったのは、ペットそのものよりも、その過程で自然にCodexの仕事の進み方へ触れたことです。
普段のチャットなら、質問すると比較的すぐに返事が返ってきます。ところが、画像を整え、必要なファイルを作り、確認しながら完成させる仕事では、少し勝手が違います。
指示を出す。処理が進む。待つ。結果を確認する。
私が「これはCodexです。普通のチャットとはこう違います」と先に講義をしたわけではありません。
ペットを作りたかったから使った。その過程で、チャットとは使い方も、結果が出るまでの時間感覚も違うことを体験していました。
そして、まとまった処理を頼めば利用枠も使います。本来なら、仕事でCodexやChatGPT Workを使っていく中で、仕事の大きさによって時間や利用枠の使い方が変わる感覚も知ってほしいと思っていました。
今回は、その感覚を知るきっかけがペットでした。
私は、それでも全く構わないと思っています。むしろ、自分がやりたいことだったからこそ、違いに気付いたのかもしれません。
「毎日リセット」が、自分に関係する情報になった
ちょうどそのタイミングで、OpenAIから新しいモデル「GPT-6 Astra」が発表されました。
OpenAIのGPT-6 Astraモデルページでは、発表時点でTrusted Access Programの企業から提供を始め、APIとChatGPTのPlus、Pro、Business、Enterpriseへは数日中に広げると案内されていました。
翌日の2026年9月4日には、ITmediaが「ChatGPTの利用制限、新モデル『Astra』提供まで“毎日リセット”」と報じました。記事によると、OpenAIの担当者が、Astraを使えるようになるまで有料ユーザーへ利用制限枠のリセット権を毎日提供し、その権利は繰り越せると説明したものです。
このITmediaの記事を見つけ、就業時間外にGoogle Chatへ貼りました。すると社員から、
「私ももう使えるんですか?」
「これならペットをたくさん作れますか?」
という反応が返ってきました。
この反応が、私は結構面白いと思いました。
少し前までなら、「利用枠」や「リセット」と説明しても、サービス仕様の一つとして聞くだけだったかもしれません。
でも、その直前に自分でペットを作っていました。Codexを動かした。少し待った。利用枠を使った。もっと作りたいと思った。
だから、利用枠のリセットが、自分に関係する情報になったのだと思います。
ここからは私の見立てですが、先に利用枠の仕組みを説明していたとしても、同じようには入らなかったかもしれません。
自分がやりたいことができたから、必要な情報になった。
そこが大きいように感じます。
ここで紹介した提供予定やリセット権の話は、2026年9月上旬の発表・報道時点のものです。後から読む方は、当時の出来事として見てください。
Markdownを作った後、どう使うのか
冒頭の質問を受けて、社員とはファイルの使い方を話すことになりました。どこへ置くのか、何と分けるのか、AIへどう渡すのか、いつ使うのか。画面に文章ができた後にも、決めることがあります。
人が後から読むだけなら、Wordでも普通のメモでも構いません。今ならAIへ頼めば、Markdownの記法を詳しく覚えていなくても、それらしい形には整理してくれます。
だから、社員にMarkdown記法を覚えてもらうこと自体には、それほど大きな意味を感じていません。
大切なのは、仕事の中で分かったことを、次に使える状態で残せるかということです。
AIとのチャットで調べたこと。作業中に間違えたこと。指摘されて直したこと。次回は最初から確認した方がよいこと。本人だから気付いたこと。
そうしたものを、その場限りのチャットや本人の記憶だけに置かず、次の仕事へ持ち越せるようにする。Markdownは、そのための一つの器です。
例えば、使い方は次のように考えられます。
- 日付と内容が分かる名前で保存する
- 業務や用途ごとに分けておく
- 次に似た仕事をするとき、関係する記録だけをAIへ渡す
- 過去の注意点と今回の条件を比べさせ、人が内容を確認する
- 新しく分かったことを記録へ戻す
何も背景を渡さない新しいチャットなら、AIは一般的な知識から答えます。関係する記録を渡せば、その人が以前どこで迷い、何を注意するようになったのかも、今回の判断材料として整理させることができます。
9月2日に公開した「AIの使い方は教えた。でも、自分の仕事の記憶はまだ残っていない」では、この考えをまだ「これからやってみたいこと」として書いていました。
今回は社員が実際にファイルを作り、その使い道を相談するところまで進みました。前の記事で考えていたことを、本人の記録を見ながら話せるようになったわけです。
何でも一つのファイルに入れればよいわけではない
そのとき社員へ説明したのは、何でも一つのMarkdownへ詰め込めばよいわけではないということでした。
例えば、配筋について学んだこと、数量計算で注意すること、図面照査の考え方、3DやCIMの知識、自分自身がよく間違えるところ、会社全体で共有したい正式なルール。
全部「仕事の知識」ではありますが、役割は同じではありません。
さらに、個人の学習記録、会社で共有するナレッジ、検討途中の考え、確認済みの情報も、同じものとして扱うべきではありません。
全部を巨大な一つのファイルへ入れてAIに渡せば、情報量だけは増えます。でも、古い考え、途中の仮説、正式なルール、個人の注意点まで混ざれば、AIから見ても何を基準にすべきなのか分かりにくくなります。
何を残すかだけでなく、何のための記録なのかを分ける。ファイルを作れるようになった次に、伝えたかったのはこの点です。
その日の話から「自分の仕事ルール」ができた
そして9月4日。
このMarkdownの使い方について話した社員が、その話を受けて、自分用の「仕事ルール」を作りました。
そこには、これまで仕事の中で指摘されたことや、自分が次回から確認すべきことが整理されていました。
- 過去成果をそのまま答えだと思わない
- 数字の根拠や単位を説明できるようにする
- 分からないものを、分かったことにしない
- 同じ見方だけで何度も確認しない
といった、自分の仕事の中で身につけてきた注意点です。
さらに面白かったのは、そのルールを自分が読むだけではなく、AIにも渡して、提出前のチェックの観点として使うという考えまで入っていたことです。
例えば、「私は過去にこういう点を注意されています。この観点でも確認してください」とAIへ渡す。指導を受けたら、その場で終わらせず、次の仕事で使う。
ここで確認できたのは、本人が注意点を整理し、次の確認に使おうと考えたことです。実際にミスや確認時間が減ったところまで、効果を確かめたわけではありません。
個人の注意点は、会社で確認済みのルールや案件ごとの指示に代わるものでもありません。AIへ渡す場合も、今回の作業に適した観点か、出力が根拠と合っているかは人が確認します。必要な判断は元請会社へ確認を求める前提です。
次の仕事で使ってみて、役立った点や足りなかった点を見直す。この仕事ルールは、そうやって更新していくものだと思っています。
教える順番は、こちらが決めなくてもよいのかもしれない
今回の一連を見ていて、改めて感じたことがあります。
AIを覚える順番を、教える側が全部決めなくてもよいのかもしれません。
Workを覚えてからCodex。チャットを理解してから利用枠。Markdownを理解してからナレッジ。
そういう順番で教えることもできます。
でも実際には、
- ペットを作りたくてCodexへ触る
- 利用枠が減ったからリセットを知る
- Markdownを作ったから使い方を聞く
- 自分の仕事ルールを作ったからAIへ渡してみる
という流れが見えてきました。最後の、AIへ渡して仕事に役立てるところは、これから確かめる段階です。
むしろ本人の「やってみたい」が先にある分、こちらの方が自然な場面もあるのかもしれません。
ただし、仕事の資料をどこまで入力してよいかなど、安全に使うための約束は先に伝える必要があります。そのうえで、機能を覚える順番には、本人の関心に任せられる余地がありそうです。
私から社員へ、だけではなく
これまでは、私が説明した内容を記録して社員へ渡すことが中心でした。今回は、指導を受けた社員自身が、自分の言葉で注意点を整理しました。
同じ説明を渡したつもりでも、本人が何を自分の課題として受け取ったかは、作った記録を見て初めて分かる部分があります。その記録を挟んで、次の使い方を一緒に考えられたことが、今回の変化でした。
「これ、どう使うんですか?」に対して、その場で使い方を説明して終わりにはしたくありません。次の仕事でどこを確認するために使ったか、使ってみて何を足したくなったか。その続きも、本人と確かめていきたいと思います。