AIの使い方は教えた。でも、自分の仕事の記憶はまだ残っていない――AIとの会話から、社員自身のナレッジへ
AIとの会話を次へ引き継ぐ記憶と、次の仕事や別の社員が使える会社の記憶は同じではありません。社員自身の経験をMarkdownで仕事の外へ残す考え方を整理します。
この4本シリーズの第1回では、全社員へAI環境を広げる理由を、第2回では、実際の仕事からAIの使いどころを見つけることを書きました。
第3回となる今回は、社員がAIと仕事をする中で生まれた知識を、どこへ残すのかを考えます。
では、社員が実際にAIと仕事を始めた後、そこで調べたことや考えたことは、どこへ残るのでしょうか。
Creerでは、社員にAIの使い方をまったく教えていないわけではありません。私がAIを使いながら考えてきたことは技術ノートとして残し、社員にも読んでもらっています。指導内容も社内ナレッジとして整理しています。
社員は必要に応じて読み返し、Gemini Notebookで資料の内容を確認したり、AIと会話しながら復習したりしています。長くなったチャットを新しいチャットへ引き継げるよう、AIに要点を整理させる方法も伝えてきました。
それでも最近、一つ気になることがあります。
社員自身が仕事をする中で分かったことは、どこに残っているのだろう。
今あるナレッジは、私から社員へ流れるものが多い
Creerには社内ナレッジがあります。ただ、今あるものの多くは、私が社員へ説明したこと、会話の中で伝えたこと、私自身が仕事をしながら考えたことを、後から読めるように整理したものです。
流れでいえば、次のようになります。
私が考える → ナレッジとして残す → 社員が読む
これはこれで必要です。社員は以前教わったことを復習でき、同じ説明を毎回最初から繰り返さずに済みます。
ただ、仕事をしているのは私だけではありません。社員自身も、日々の作業の中で経験を積んでいます。
社員自身の仕事からも知識は生まれている
例えば数量計算なら、過去資料を探し、似た事例を見つけ、数量算出要領の該当箇所を確認します。ある方法で数量を拾い、別の方法でチェックし、間違いを見つけて修正することもあります。
その結果、「次に同じ作業をするときは、最初からここを確認した方がよい」と分かる。
これも立派な仕事の知識だと思います。
しかし今のところ、それを社員自身が文章として整理し、会社へ戻す習慣はほとんどありません。
仕事は終わっている。本人の中には経験が残っている。AIとのチャットにも一部残っているかもしれない。でも、次の仕事や別の社員が使える形にはなっていない。
ここは、これまで私が作ってきたナレッジとは別の課題です。
チャットをつなぐ記憶と、仕事として残す記憶
長くなったチャットをAIに整理させ、その内容を新しいチャットへ渡す。これは今でも便利な方法です。
ただ、この方法の主な目的は、次のAIとの会話を続けることです。前のチャットで何を話したのかを次のAIへ伝え、そこから続きを始める。そのためのコンテキストです。
一方、会社の仕事として残したいものは少し違います。
- 何を調べ、どの資料を参照したのか
- どのような方法で作業したのか
- 何をチェックしたのか
- どこで間違え、なぜ修正したのか
- 次に同じ仕事をするとき、何に注意するのか
こうしたものは、次のチャットだけでなく、次の仕事でも使えます。別の社員にも使えますし、利用するAIが変わっても渡せます。
AIとの会話を続けるための記憶と、会社の仕事として残す記憶は同じではありません。
スマートフォンだけでは、必要性に気付きにくい
社員がMarkdownを知らないこと自体は、不思議ではないと思っています。
個人でスマートフォンからChatGPTやGeminiを使うのであれば、アプリを開けば過去のチャットがあります。普段の相談や調べものなら、それで困らないことも多いでしょう。
その使い方では、「この会話を外へ出し、ファイルとして保存しておこう」という発想にはなりにくいと思います。
しかし、PCで仕事に使うと事情が変わります。画面の周りにはCAD、Excel、PDF、案件フォルダ、過去資料、基準類があります。そして仕事は、一回のチャットでは終わりません。
そこで初めて、AIの中に残しておくものと、会社の仕事として残すものは別ではないか、という問題が出てきます。
Markdownを教えたい理由
社員には、Markdownの良いところや使い方、管理の仕方を一度きちんと伝えたいと思っています。
ただし、記号の書き方を覚えてほしいからではありません。今なら、
今日の作業で調べたこと、修正したこと、次回注意することをMarkdownで整理して
とAIに頼めば、文章のたたき台は作れます。大切なのは、出てきた内容を本人が確認したうえで、AIとの仕事で生まれたものをチャットの外へ出して残すという考え方です。
例えば案件ごとの所定の共有場所に、context.mdのようなファイルを置きます。
- 今回の作業内容
- 参照した資料や基準
- 注意した条件
- 修正した内容と理由
- 次回確認すること
こうした内容を残しておけば、次の日にAIへ渡して続きから始められます。別の社員も読めます。ChatGPT、Gemini、Claudeなど、利用するAIが変わっても扱えます。
特定のAIサービスの会話履歴だけに、仕事の記憶を預けずに済みます。
機能名は、必要になってから覚えればよい
ChatGPTのProjectsは、案件や仕事単位で、関連するチャット、ファイル、指示、参照情報をまとめる仕組みです。一方、Gemini Notebookは、与えた資料を基に内容を確認し、対話する場面で使えます。
ただ、社員がこうした機能をまだ十分知らなくても、それほど不思議ではありません。これまで主にAIをチャットとして使ってきたのであれば、必要性を感じる場面が少なかったからです。
毎回同じ前提を説明するのが面倒になった。昨日までの内容をまた説明している。案件ごとに資料と前提をまとめて持たせたい。
また、同じ役割や指示を毎回貼り直しているなら、GeminiのGemのように、あらかじめ指示を持たせる機能も意味を持ってきます。
そういう経験をして初めて、Projectsのように案件単位で前提や資料を持たせる機能や、Gemini Notebookのように資料を基に対話する機能の意味が分かります。
機能名を先に覚えるより、自分の仕事で必要性を感じてから使った方が理解しやすいと思います。
社員の仕事から、会社へ知識が戻るか
社員には、AIの記憶、コンテキスト、ナレッジについて書いた技術ノートも読んでもらっています。ただ、読んで知っていることと、自分の仕事で必要になることは違います。
自分でAIを使って仕事をして、「また同じことを説明している」「前に調べたことが見つからない」「このチェック方法は次にも使えそうだ」「この間違いは残した方がよい」と感じて、初めて自分の問題になります。
全社員へAIを使える環境を広げようと考えた理由の一つも、そこにあります。AIについて知ってもらうだけではなく、自分の仕事で使い、自分で必要性を感じてもらう。
これまでは、私が考えたことを社員が後から読めるように残してきました。
これから見てみたいのは、その逆です。
社員が仕事をする中で考えたことが、会社へ戻ってくるようになるか。AIとの会話を続けるためだけの記憶ではなく、次の仕事や別の社員にも使える仕事の記憶として残せるか。
Markdownを教えたいと思っているのも、そのためです。
AIを使える環境を渡す。自分の仕事から使いどころを見つける。そこで生まれた知識を、次の仕事や別の社員が使える形で残す。この3つをひと続きにして初めて、会社の中でAIを使う経験が少しずつ積み上がっていくのだと思います。
4本シリーズ・第4回:CreerのAI活用は、今どこまで来たのか