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AIは説明していた。それでも分からなかった――社員が実務でGPTを使い始めて見えたこと

社員が複雑な数量計算を理解するため、自分でGPTを使い始めました。AIは式を説明していましたが、図面の三次元形状と結び付かず、人の指導が必要になった経験を記録します。

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最近、社員が仕事の中でGPTを使う場面が明らかに増えてきました。

当社では、全社員がChatGPT Businessを使える環境にしています。

なぜ全員に環境を渡したのか。まず触ってみることにどんな意味があるのか。仕事のどこにAIを入れられるのか。

このあたりは、これまでの技術ノートでも何度か書いてきました。

今回は、その先の話です。

実際の仕事で社員がGPTを使い始めると、「AIが使える」というだけでは終わらない次の課題が見えてきました。

既存の数量計算書に、気になる式があった

きっかけは、既存の数量計算書を確認していたときのことでした。

対象は、既設コンクリート構造物の撤去数量です。

計算書の式を追っていると、数量を大きく変えてしまう可能性のある箇所がありました。

数字そのものというより、式の組み方です。

断面積が区間の両端で変化するのであれば、両端の断面積を足して平均し、その平均断面積に延長を掛ける。一方の断面がゼロになるのであれば、結果的には三角形状の体積を求める考え方になります。

ところが、その箇所では、この考え方と整合しない演算になっていました。

私は式を見ると比較的すぐに、

これは、今回の形なら「+」で考えるところではないか。

と違和感を持てます。

数量計算では、数字だけが合っているように見えても安心できません。

+なのか。-なのか。×なのか。÷なのか。1/2が必要なのか。係数が抜けていないか。

演算子一つで、数量が何倍にも変わることがあります。数字にチェックマークが付いていても、式全体の考え方まで確認したことにはなりません。

今回の形は、少し難しかった

今回担当していたのは、入社してまだ2年に満たない社員です。

入社後、少しずつ経験を積み、配筋図もある程度分かるようになってきました。ただ、今回の構造物は、これまで多く扱ってきた直方体に近い形とは少し性格が違いました。

テーパーがあり、平面的にも断面的にも斜めになっています。言ってしまえば、斜めのものが、さらに斜めにつながっているような形です。

平面図だけを見ても分かりにくい。側面図だけでも分かりにくい。断面図も合わせ、頭の中で三次元に組み立てなければ、どこの面積にどの延長を掛けているのかが見えてきません。

数量計算の経験を積んでいる途中の社員にとっては、一段違う考え方が必要になる形でした。

分からないところで、自分からGPTを使っていた

今回、私が良かったと思ったのはここです。

社員は分からないところで、自分からGPTを使っていました。

以前なら、

分からないので教えてください。

と、そのまま私のところへ来ていたかもしれません。

今回はその前に、自分でAIへ聞いてみていました。さらに、数量計算書だけではなく、V-nasClairのBFOデータまでAIに渡していました。

図面そのものも見てもらえば、数量式が何を意味しているのか分かるのではないか。そう考えたのだと思います。

私は、これ自体は悪いことだと思っていません。むしろ、自分の仕事を理解するために、AIをどう使えるか試してみたことに意味があると思っています。

AIは説明していた。それでも図面と式がつながらなかった

社員の話を聞くと、GPTもかなり丁寧に説明していたようです。

文章だけではなく、簡単な図のようなものまで作りながら、

  • この式は、こういう意味ではないか
  • 平均断面積で考えるのではないか
  • 一方の断面がゼロなら、三角形として考えられる

といった説明をしていました。

私が内容を聞いて、

たぶんAIなら、こういう答えを返していると思う。

と言うと、

本当に、ほぼその通りでした。

という話にもなりました。

つまり、AIがまったく説明できていなかったわけではありません。計算書に書かれた数字や式の構造を読み取り、社員が「この式は何かおかしいのではないか」と立ち止まるところまでは役に立っていました。

それでも、本人の中では、その式が図面のどこの部分を計算しているのかがつながりませんでした。

平均断面積だと言われても、どの断面とどの断面を平均するのか。なぜ片側がゼロになるのか。なぜ1/2を掛けるのか。その式で求めている立体が、図面上のどこに存在するのか。

そこが見えていない。

結局、もやもやしたまま私のところへ来ました。話を聞いていて、私は途中で思いました。

これは単純に算数の問題ではない。

その前に、図面から三次元形状を理解できていないのではないか。

数量計算の前に、図面を見るところへ戻る

体積を求めるのであれば、まず、何の体積を出そうとしているのかが分からなければなりません。

平面図ではどう見えるのか。側面図ではどう見えるのか。断面を切ればどうなるのか。実線と破線は何を表しているのか。どこから形が変化し、どこでゼロになるのか。

そこが理解できて初めて、

だから、この面積とこの延長を使うのか。

と式につながります。

そこで今回は、数量の答えだけを教えるのではなく、一度、図面の見方まで戻って復習した方がよいと話しました。

成果品のような、きれいな図を書く必要はありません。自分が理解するためだけの図でいい。

平面、側面、断面を、分かりにくければ別々に描く。斜めになっているところを自分で描いてみる。そうやって三次元の形を頭の中で作れるようにならなければ、今後も似た形状で止まってしまいます。

この指導をしながら、AIと人間の違いも感じました。

同じ図面を二人で見ていれば、私は指で「ここ」と示せます。それでも分からなければ、横の紙へ数本の線を書けばいい。

ここに断面がある。

こっちに行くとゼロになる。

だから、この部分は三角形になる。

必要なら、その部分だけ色を付ける。すると、「ああ、ここですか」と一気につながることがあります。

人間同士では、指差し、視線、手書き、色、その場のやり取りまで使って説明しています。

今回強く感じたのは、正しい説明と、理解できる説明は同じではないということでした。

AIの限界なのか、受け渡し方の問題なのか

ただ、私はこれを単純に、

AIは図面が読めない。

だけで終わらせたくありません。

今回のやり取りでは、計算書の式や数字はかなり整理できていました。一方で、その数字が図面のどこを表しているのか、平面図、側面図、断面図をどう対応させるのかまでは、本人が理解できる形で結び付けられませんでした。

AIの説明を受け取る人間側にも、図面を見るための基礎が必要です。AIが正しく説明していても、その説明を受け取るための前提がなければ理解できません。

だから、AIの能力だけの問題とも言い切れません。

今後は例えば、

  • 対象部分だけ色を変える
  • 必要な範囲だけ拡大する
  • 平面と断面で、同じ部分を同じ色にする
  • 対象位置を特定できなければ、AIから追加図を求めるようにする

といった渡し方も試せそうです。

AIの性能だけでなく、AIが見る問題そのものを分かりやすくすることも必要なのだと思います。

BFOを直接渡したから、Workとチャットの使い分けも見えた

社員は今回、V-nasClairのBFOデータをそのままAIへ渡していました。

AIは中身を確認するため、ビューアを探し、開く方法から調べていたようです。後から「どうだった?」と聞くと、

すごく時間がかかるし、利用量もかなり減る。

という返事でした。

そこでDXFについても説明しました。

DXFという言葉を記事で一度見たことがあっても、

今の仕事なら、必要な範囲をDXFにしてAIへ渡した方がよい。

と、その場で判断できなければ、まだ実務で使える知識にはなっていません。

逆に今回、BFOをそのまま渡し、AIが何とか開こうとして時間がかかり、そこでDXFという別の選択肢を知りました。この経験があれば、次は思い出せるかもしれません。

私は、こういう遠回りも含めて本人の学びだと思っています。

また、ChatGPT Workを使ったこと自体が悪いわけでもありません。

OpenAIのChatGPT Work公式ガイドでは、答えや説明、短い草稿が必要なときはチャット、ファイルや複数の道具を使い、確認できる成果物まで作る仕事にはWork、という目安が示されています。

今回の数量確認を細かく分けると、

  • この数量式は何を意味しているのか
  • この1/2は何のためなのか
  • 平均断面積として考え方が合っているか

といったところは、まず通常のチャットでも試せます。

一方で、実際にファイルを変換する、対応するソフトを探して開く、画面を操作して成果物を作るところまで必要なら、Workを使う意味が出てきます。

Workを使わない方がよいのではなく、今の仕事にWorkが必要かを考える。

そこが大事なのだと思います。

AIに仕事を頼む時にも「要件定義」がいる

この話は、プロンプトにもつながります。

例えば、

この図面と数量計算書を見て、全部確認して。

と依頼したとします。

するとAIは、何を見るのか、どこが対象なのか、数量を再計算するのか、図面を解析するのか、式を説明するのか、誤りを探すのか、そこから考えなければなりません。

Workであれば、必要なソフトは何か、どう開くのか、何を操作するのかという作業まで増える可能性があります。やることが増えれば、時間も利用量も増えやすくなります。

それより、

この式の意味だけ確認してほしい。

この1/2が必要な理由だけ説明してほしい。

対象位置を特定できなければ、推測せず、必要な図面を聞いてほしい。

と範囲を区切る。

必要なところまではチャットで進め、実際にソフトを使った作業が必要になればWorkへ渡す。

これは単なるプロンプトの書き方ではなく、AIに仕事を頼むための要件定義に近いと思っています。

何をしたいのか。何を渡すのか。どこまでやってほしいのか。何を勝手に判断してはいけないのか。分からない場合はどこで止まるのか。

そこを決めれば、AIが無駄に広い範囲を考えなくて済みます。返答も速くなりやすく、余計な処理も減らせます。

AIが高性能になったからこそ、何でも全部やらせるのではなく、必要な仕事だけ切り出す力が重要になってきたように感じています。

「まず触る」の先にあるもの

「まずAIを触ってみる」という話は、これまで何度も書いてきました。

今回感じたのは、その次の段階です。

実務で使い始めると、

  • この仕事はチャットでよい
  • ここからはWorkを使う意味がある
  • このファイルより別の形式の方がよい
  • この聞き方では範囲が広すぎる
  • AIの説明は合っているように見えるが、自分がまだ理解できていない

といったことが見えてきます。

これは、説明を読んだだけではなかなか身につきません。自分の仕事で使い、遠回りもしながら覚える部分だと思います。

今回の数量計算は、最後は人間の指導が必要でした。AIだけでは、本人の中で図面と数量式を最後までつなげられませんでした。

だからといって、AIを使った意味がなかったとは思っていません。

AIへ聞いたことで、式の演算に問題があることには気付けた。自分で図面データまで渡してみた。BFOをそのまま扱うと時間がかかることも経験した。チャットとWorkの役割の違いを知った。依頼の範囲を広くしすぎれば、処理も広がることを知った。

そして、自分が本当に分かっていなかったのは、数量式以前に、図面から三次元形状を捉えるところだったことも見えてきました。

一つの仕事の中で、かなりいろいろなことを経験しています。私は、それでよいと思っています。

AIに答えを教えてもらうだけではなく、AIを使った結果、自分がどこまで分かっていて、どこから分からないのかを知る。

それも、AIを使う価値の一つなのかもしれません。

社員がGPTを実務で使い始めたことで、当社のAI活用も、

「使ってみる段階」から、「仕事に合わせて使い分ける段階」へ。

少しずつ進み始めているように感じています。