AIを使っていないことより、変化を知らないことの方が怖い――そろそろ本気で始める時期に来ている
生成AIを使うかどうか以前に、自分たちの業界で何が起きているのかを知らないことの方が怖い。国土交通省の動き、日本のAI活用の遅れ、会社と個人の経験差、ベテラン技術者が今からAIに触れる意味を考えます。
AIを使っていないことより、変化を知らないことの方が怖い
――そろそろ本気で始める時期に来ている
生成AIを仕事で使うかどうかは、会社によって判断が違ってよいと思っています。
情報管理の問題もあります。AIは間違えることもあります。業務によって向き不向きもあります。
すべての仕事をAIに置き換えればよいとは思いません。
ただ最近、それとは少し違う危機感を持つようになりました。
AIを使っていないことそのものより、AIを取り巻く環境がどこまで変わっているのかを知らないことの方が問題なのではないか。
ということです。
日本では、仕事でAIを使う人がまだ少ない
2026年8月、BBCが日本企業のAI活用の遅れを取り上げた記事を公開しました。
記事では、日本は人手不足、高齢化、生産性という課題を抱え、本来はAI活用の効果が大きいはずなのに、職場での利用が十分に進んでいないことが取り上げられています。
OECDが公表している日本の労働市場とAIに関する報告でも、日本の職場でのAI利用率は8.4%とされています。
私は、この数字だけを見て「日本は遅れている」と言いたいわけではありません。
もっと気になるのは、
自分たちの仕事を取り巻く環境がどこまで変わっているのかを、そもそも知らない人や会社が多いのではないか。
ということです。
参考:BBC「Why Japanese firms are being so slow to use AI」、OECD「Artificial Intelligence and the Labour Market in Japan」
建設コンサルタント業務の周辺では、すでに動き始めている
建設コンサルタント業務に関係するところでも、発注者側はすでに具体的に動き始めています。
国土交通省は2025年10月、「生成AIによる河川砂防技術基準の活用とその留意点」を公開しました。
河川砂防技術基準を生成AIから参照するための考え方としてRAGを示し、Google NotebookLMを使った具体的な活用例まで紹介しています。
当社でも、この取組は技術ノートの最初の記事で紹介しています。
今回あらためて気になったのは、内容そのものではありません。
これが公開されてから、もう一年近くが経とうとしていることです。
さらに2026年3月には、国土交通省が「インフラ分野のAI実装に向けた取組方針(骨子案)」を示し、建設コンサルタント業務等を中心に、受発注者双方で生成AIを積極的に利活用する体制づくりを進める方向を明確にしています。
生成AIはもう、
「興味のある会社が試している新しいツール」
というだけの話ではなくなりつつあります。
参考:国土交通省「活用しやすい河川砂防技術基準に向けての取り組み」、国土交通省「生成AIによる河川砂防技術基準の活用とその留意点」、国土交通省「インフラ分野のAI実装に向けた取組方針(骨子案)」
「知らなかった一年」は、そのまま経験差になる
この一年近くの間に、AIを実際の仕事で触ってきた技術者は、成功だけではなく失敗も経験しています。
どんな質問なら使えるのか。
どこで間違えるのか。
どの資料を与えればよいのか。
どこまで信用できるのか。
どこから先を人間が確認しなければならないのか。
こうした感覚は、AIサービスを契約した日に突然身につくものではありません。
実際に使い、失敗し、考え直しながら少しずつ身につくものです。
そう考えると、まだほとんど触っていない会社や技術者は、
これから始めれば同じスタートラインなのではなく、すでに試行錯誤してきた人たちとの間に、その期間分の経験差が生まれている。
ということを認識した方がよいと思います。
これまで始めなかったことを責めても仕方がありません。
大切なのは、遅れがあることを認識したら、これ以上その差を広げないことです。
そのためにも、まず変化を拾うためのアンテナが必要になります。
会社にも、個人にも差が出る
以前から、
「AIを使う会社と使わない会社で差がつく」
と言われてきました。
最近は、それがかなり現実的な話になってきたように感じます。
ただ、単純にChatGPTや生成AIのライセンスを契約している会社と、契約していない会社に分かれるとは思っていません。
これから差が出るのは、
AIを仕事の中に少しずつ組み込み、試しながら仕事の進め方そのものを改善していける会社
と、
AIを導入しても、従来の仕事のやり方をほとんど変えられない会社
ではないかと思います。
AIを使う。
少し時間が生まれる。
その時間で次の改善をする。
社員の経験が増える。
社内に活用事例が増える。
さらにAIを使えるようになる。
こうした循環ができれば、差は少しずつ広がります。
逆に、
忙しいから試せない。
試さないから仕事のやり方が変わらない。
従来作業に時間を取られる。
さらに新しいことを試す時間がなくなる。
という循環も起こり得ます。
これは会社だけではありません。
個人にも同じことが起こると思っています。
AIを使えることは、社員自身の将来にもつながる
当社では社員にも、AIを使えるようになることは会社のためだけではなく、社員自身の将来の選択肢を広げることにもつながると話しています。
将来、環境や仕事が変わったとしても、AIを使って調べ、整理し、試し、仕事を改善できる力は、業種を問わず役立つ可能性があります。
新しい職場や異なる業界では、新しい専門知識を一から身につけなければならないこともあります。
そのとき、AIを使いながら必要な情報を集め、理解し、試しながら学習できる人と、従来の方法だけで学ぶ人では、成長の速度にも差が出てくるのではないでしょうか。
AIを使えること自体が価値なのではありません。
新しい仕事を理解し、必要な情報を集め、考え、試し、改善していく速度を上げられることに価値がある。
私はそう考えています。
もちろん、建設分野では技術知識や経験が重要です。
AIがそれを代替するものだとも思っていません。
しかし、AIを学習、確認、整理、試行の道具として使うことで、技術者自身が考えることに使える時間を増やすことはできます。
将来は、
「AIか技術者か」
という比較ではなく、
AIをうまく使える技術者と、AIをほとんど使わない技術者の差
として現れてくるのかもしれません。
アンテナに年齢は関係ない
そして、AIへのアンテナに年齢は関係ないと思っています。
「もう定年が近いから、こういうものは若い人に任せればよい」
という考え方もあるかもしれません。
私は、むしろ逆だと思っています。
定年や退職までの時間が限られている技術者ほど、一日でも早くAIに触れる意味がある。
AIの操作を覚えること自体が目的ではありません。
その人が何十年もかけて積み上げてきた経験を、次の世代へ残すために、新しい道具を使える可能性があるからです。
若い技術者には、これから経験を積む時間があります。
一方で、ベテラン技術者が持っている30年、40年分の経験を会社へ残せる時間には限りがあります。
若い人はAIの操作方法を覚えられます。
しかし、何十年もの実務経験を短期間で作ることはできません。
だから、
ベテランの経験 × 若手の吸収力 × AI
という組み合わせを作ることに、大きな意味があると思っています。
新しいものに触ることには、多少の抵抗や覚悟が必要かもしれません。
長年続けてきた仕事のやり方があります。
新しい画面は分かりにくい。
AIは間違える。
思ったように動かないこともあります。
それでも、自分が長年積み上げてきたものを次の世代へ残すことを考えるなら、残された時間が短い人ほど「そのうち」ではなく、今から触る意味があるのではないでしょうか。
AIを導入することと、アンテナを持つことは違う
すべての企業が今日から大規模にAIを導入するべきだとは考えていません。
会社ごとに事情があります。
セキュリティもあります。
費用もあります。
社員教育も必要です。
だから、
「今はまだ本格導入しない」
という判断自体はあってよいと思います。
ただし、その判断をするためには、今何が起きているのかを知っておく必要があります。
国や発注者は何を始めているのか。
自分たちの業界では何が変わり始めているのか。
同業他社や大手企業は何を試しているのか。
AIそのものはどこまで進んでいるのか。
自分たちの仕事なら、何に使える可能性があるのか。
それを知らないまま、
「うちにはまだ必要ない」
と考えるのは、判断というより単に情報がない状態なのかもしれません。
そろそろ本気で始める時期に来ている
AI活用について慎重であること自体は悪くないと思います。
しかし、慎重であることと、何もしないことは違います。
国土交通省が河川砂防技術基準で生成AIの具体的な活用例を示してから、すでに一年近くが経とうとしています。
その間に実際に触ってきた人は、成功も失敗も含めて経験を積んでいます。
まだ触っていないのであれば、もう同じスタートラインではありません。
だからといって、悲観する必要もありません。
遅れていることを認識したなら、今日から始めればよい。
まず知る。
触る。
試す。
失敗する。
また考える。
高度なAI活用をいきなり目指す必要はありません。
毎日AIのニュースを追いかける必要もありません。
ただ、自分の業界に関係する行政の動き、大きな技術変化、同業他社の取組、自分の仕事に直接関係しそうなAIの進歩くらいは、定期的に拾える状態を作った方がよいと思います。
そして気になったものがあれば、少し触ってみる。
分からなければAIそのものに聞いてみる。
小さく試す。
うまくいかなければ、その理由を考える。
それだけでも経験は蓄積されます。
当社も高度なAI技術を研究する会社ではありません。
日々の仕事の中で、
「これに使えないか」
と思ったものを一つずつ試してきただけです。
失敗もかなりしています。
しかし、その試行錯誤が積み重なることで、少しずつ仕事の進め方が変わってきました。
これから会社にも個人にも、AIをうまく機能させられる側と、そうでない側の差は広がっていくのかもしれません。
その差を生む最初の一歩は、高額なシステムを導入することではないと思います。
まず、変化に気付くためのアンテナを持つこと。
そして、知ったら少し触ってみること。
一年後に振り返ったとき、その小さな積み重ねが大きな経験差になっている可能性があります。
「AIはそのうち」ではなく、
そろそろ、自分たちの仕事でどう使うのかを本気で考え始める時期に来ている。
私はそう感じています。
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