中小企業のAI活用6段階と、次に必要になるキーユーザー
生成AIの利用は急速に身近になった。
ChatGPT、Gemini、Claudeなどを使って、検索、要約、文章作成、調査、相談をすることは、すでに特別なことではない。
一方で、会社としてAIを使う場合は、個人利用とは少し違う。
個人であれば、便利ならそれでよい。
会社の場合は、
- 本当に作業時間が減るのか
- 誰が使っても再現できるのか
- 誤りがあった場合にどう確認するのか
- 社内データをどこまで扱わせるのか
- 既存のExcelや業務システムとどうつなぐのか
- 費用に見合うのか
まで考える必要がある。
AIを導入することと、AIによって仕事そのものを変えることは別物である。
当社は小規模な会社ではあるが、経営と技術実務の両方を見る立場にいると、AIについても「便利なツールとして使う」だけではなく、「どの仕事を人間から外せるのか」という見方をするようになる。
そう考えると、中小企業のAI活用は、だいたい6段階くらいに整理できる。
レベル1 質問・検索
最も基本的な使い方である。
分からないことを聞く。
検索の代わりに使う。
アイデアを出してもらう。
今後は、この使い方自体はかなり一般化していくだろう。
レベル2 文章・資料作成支援
メール、要約、議事録、報告書、記録簿、説明資料などをAIに作らせる。
現在、「会社で生成AIを使っている」と言われる利用の多くは、この領域に含まれると思う。
もちろん便利である。
ただし、
AIで文章を作る
↓
人間がコピーする
↓
別のシステムに貼り付ける
という流れであれば、仕事そのものは大きく変わっていない。
AIによって一部の時間は短縮されるが、人間は依然として作業の中心にいる。
レベル3 専門業務・情報活用
ここからAIが、単なる文章作成ツールではなく、仕事の補助者になってくる。
例えば、
- 技術基準や法令を読ませる
- 過去案件を比較する
- Excelデータを分析する
- 複数資料から条件を整理する
- 社内資料から必要情報を探す
- 専門的な検討の壁打ちをする
- 長い資料から必要な根拠だけを抜き出す
といった使い方である。
Google Workspaceであれば、GeminiやGemini Notebookを使いながら、Gmail、Drive、Docs、Sheets、Meetなどをまたいで情報を扱う。
ここでは、AI単体の性能だけでなく、グループウェアをどこまでシームレスに使えるかも大きな差になる。
同じGoogle Workspaceを導入していても、
Gmailだけ Sheetsだけ Docsだけ
と個別に使うのか、
メール、資料、会議記録、表計算をAIで横断してつなぐのかでは、使い方の深さがかなり違う。
この段階では、AIが人間の「探す」「考える」「整理する」をかなり助ける。
レベル3から4へ進むための橋渡し
ここには、小さな自動化がある。
VBA、GAS、Python、小さな社内ツール、APIなどを使って、日常業務の一部を自動化する。
例えば、
「ボタンを押せば帳票が完成する」
「毎月同じExcelを自動で集計する」
「Googleフォームの入力から一覧表を自動生成する」
「メール本文から必要事項を抜き出して表へ登録する」
「決まった形式のデータを別の台帳へ転記する」
といったものだ。
以前なら、こうした仕組みを作るにはある程度プログラムが書ける人が必要だった。
今はAIに相談しながらVBA、GAS、Pythonなどを作れるため、この部分のハードルはかなり下がっている。
ここは独立したレベルというより、レベル3から4へ進むための橋渡しと考えるのが分かりやすい。
レベル4 AIが業務データを動かす
ここからAI活用の性質が変わる。
AIが答えを返すだけではなく、実際の業務データを読み書きする。
例えば、社員が日報を音声で話す。
「午前は工番1234で○○業務。午後は工番1238で△△業務。今日は午前の業務がメイン。」
AIが内容を理解し、
午前工番 午前作業 午後工番 午後作業 メイン業務
という形に整理する。
そのままPythonやAPIなどを通じて、共有Excelや社内データへ登録する。
社員はExcelを開かない。
自分の行を探さない。
日付を探さない。
入力もしない。
ここまで来ると、
「AIを使って文章を作った」
ではなく、
今まで人間がやっていた作業が一つなくなった
と考えた方が近い。
個人的には、このレベル3と4の間がかなり大きな壁だと思う。
レベル5 AIに「仕事」を任せる
さらに進むと、AIにまとまった仕事を任せる。
例えば、
「この案件の条件表を確認して、必要な値を業務ソフトへ入力し、計算を実行して、結果を所定の場所へ保存して」
と指示する。
するとAIが、
必要なファイルを探す
↓
内容を確認する
↓
業務ソフトを起動する
↓
必要な箇所を判断して入力する
↓
処理を実行する
↓
結果を確認する
↓
所定の場所へ保存する
という一連の処理を進める。
人間が、
「次にここをクリックして」
「次にこの数字を入れて」
と逐一指示するわけではない。
人間は仕事を指示し、AIが実行する。
事務業務でも同じである。
例えば給与振込なら、
給与データを確認する
↓
振込先と金額を照合する
↓
銀行のWebシステムへ登録する
↓
合計人数や総額を確認する
↓
承認直前で停止する
といったところまでAIに任せることが考えられる。
最終承認やワンタイムパスワードの入力は人間が行う。
この段階になると、人の役割は、
入力する人
から、
指示する人、確認する人、承認する人
へ変わってくる。
レベル6 AIに「目的」を任せる
レベル5が「この仕事をして」と依頼する段階だとすれば、レベル6は「この目的を達成して」に近い。
例えば、
「この案件について資料を確認し、必要条件を整理し、予備検討を行う。一定の範囲までは自動で調整してよい。ただし重要な判断の前には確認を求める。」
といった指示である。
AIは、
何を確認するか どの資料を使うか どの順番で処理するか 問題が出たときに次に何を試すか
まで考えて進める。
つまり、
レベル5はAIに仕事を任せる段階。
レベル6はAIに目的を任せる段階。
ここまで進むと、人間は作業者ではなく、目的設定者、専門判断者、責任者に近づく。
最も大きな壁はレベル3と4の間にある
レベル1から3では、次のように人間が情報を運ぶ場面が残ります。
人間 → AI → 人間 → 業務システム
となることが多い。
AIが優秀でも、最後は人間が情報を運ぶ。
一方、レベル4以降では流れが変わります。
人間 → AI → 業務システム
になる。
人間がデータの運搬役から外れ始める。
ここから初めて、AI導入が「便利なツールの追加」ではなく、業務プロセスの変更につながってくる。
グループウェアを入れただけではレベル4、5にはならない
例えばGoogle Workspaceを導入し、GeminiやGemini Notebookを利用できるようにしたとする。
それだけでも、検索、メール、資料分析、情報整理、社内知識の活用など、レベル1から3はかなり強くなる。
ただし、それだけで自動的にレベル4や5まで行けるわけではない。
AIに質問する。
文章を作る。
資料を調べる。
表を分析する。
ここまでは、AIが「考える」「整理する」「提案する」側である。
一方で、
- 社内データを書き換える
- 業務システムへ入力する
- 複数アプリをまたいで処理する
- 既存ソフトを操作する
- 一定の判断をしながら処理を進める
となると、別の仕組みが必要になる。
GAS、Python、API、小ツール、エージェント、コンピューター操作機能などである。
GoogleであればGeminiやGemini Notebookに加えて、SparkやAntigravityのようなエージェント系の仕組み。
OpenAIであればChatGPTに加えてWorkやCodex。
AnthropicであればClaudeに加えてClaude CodeやCowork。
製品名や機能は今後も変わっていくと思う。
ただ、大きな流れは同じで、
AIに聞く
ところから、
AIに仕事を進めてもらう
ところへ向かっている。
つまり、
AI付きグループウェアを導入すること
と、
AIを使って業務プロセスを変えること
は、同じではない。
AIを会社が用意しても、なぜあまり使われないのか
大企業などでは、
「会社が生成AIを用意したが、実際には一部の社員しか使っていない」
という話もある。
これは、ある意味で自然だと思う。
AIを渡されても、
「何に使えばいいのか」
が分からないからだ。
メールを書く。
要約する。
調べる。
この辺りはすぐ分かる。
しかし、自分の毎日の仕事を見て、
「この作業はAIに置き換えられないか」
と考えるのは、少し別の能力である。
だから、AIが使われない理由を
「社員のAIリテラシーが低い」
だけで片付けるのは少し違う気がする。
本当の壁は、
自分たちの業務を分解して、どこをAIや自動化に置き換えられるか考える力
にあるのではないだろうか。
「AIを使う仕事がない」は、本当にそうなのか
AI導入を検討していない会社の中には、
「うちにはAIを使う仕事がない」
と考える会社もあると思う。
しかし、AIから使い道を考えると、確かに何をすればいいか分かりにくい。
逆に、日常業務から考えてみる。
毎日入力しているExcel。
毎月作っている集計。
何度も転記している数字。
定型的に作っているメール。
毎回探している過去資料。
同じ画面へ何度も入力している業務ソフト。
毎回人が見て確認している一覧。
「これは本当に毎回人間がやる必要があるのか」
AIの使い道を先に探すより、日常業務の中から、人間がやらなくてよい作業を探す。この順番の方が、AI導入を考える上では分かりやすいと思う。
AIには使い方の教科書がない
Wordなら文章を書く。
Excelなら表計算をする。
CADなら図面を書く。
用途が比較的はっきりしている。
AIは少し違う。
同じAIでも、
ある人はメールを書く。
ある人は技術資料を調べる。
ある人はExcelを分析する。
ある人はVBAやGASを作る。
ある人は業務システムそのものを自動化する。
ある人はAIエージェントに仕事を任せる。
つまり、AIには
「この通り使えば正解」
という教科書があまりない。
だから大事なのは、
AIの操作方法を覚えることより、今の仕事をどう変えられるか考えること
だと思う。
全社員がレベル4や5になる必要はない
もちろん、全社員がPythonやAPIを理解する必要はない。
全社員がAIエージェントを作る必要もない。
全社員は、レベル1から3を自然に使えるようになる。
検索、文章作成、情報整理、資料分析、専門業務の補助としてAIを使う。
その上で、会社の中に少人数のキーユーザーが必要になる。
キーユーザーは会社のAI活用を左右する
今後、中小企業のAI活用で重要になるのは、このキーユーザーの存在だと思う。
キーユーザーは、単にAIに一番詳しい人ではない。
キーユーザーに必要なのは、業務知識 × 改善意識 × AI理解である。
例えば、
「この入力は毎回同じだ」
「この数字は別の表から取れる」
「この確認はAIでもできる」
「ここは自動化してもよい」
「ここだけは人間判断を残すべきだ」
と、業務を分解して考えられる人である。
以前であれば、こうした人自身にかなりのプログラミング能力が必要だった。
今は、VBAやGAS、Python、小ツールの作成そのものをAIがかなり手伝ってくれる。
だから、今後は
プログラムを書ける人
より、
何をプログラム化すれば仕事が楽になるか気付ける人
の価値が高くなる可能性がある。
そして、このキーユーザーを育成することが、AI導入後の次の課題になると思っている。
全社員を高度なAIユーザーにする必要はない。
しかし、各部署や会社全体の中に、
「この仕事は変えられる」
と気付いて、実際の仕組みづくりまでつなげられる人がいるかどうか。
ここが、会社のAI活用の進み方をかなり左右する。
中小企業だからこそ進めやすい部分もある
大企業では、システム、セキュリティ、稟議、情報システム部門、既存ルールなどが複雑になる。
一方で、中小企業には、
「まずこの作業だけ試してみよう」
と比較的早く動ける利点がある。
最初から大規模なAIシステムを作る必要はない。
例えば、
音声
↓
AI
↓
データ整理
↓
Excel更新
のような、小さな仕組みでもよい。
一つ成功したら、別の業務へ横展開する。
一つの改善が月に数時間しか減らなくても、同じような改善が10個、20個あれば会社全体への影響は大きい。
改善を積み重ねる中で、AIを使う文化ではなく、人間がやらなくてよい仕事を探す文化ができてくる。
こちらの方が、会社にとっては重要だと思う。
「AIを使っています」では差がつかなくなる
今後、検索、要約、メール、議事録、資料作成にAIを使うことは、かなり一般化していくだろう。
そうなれば、
「当社では生成AIを導入しています」
ということ自体には、大きな意味がなくなる。
見るべきなのは、AIを何回使ったか、AIで何を作ったかではない。
AIによって、人間がやらなくてよくなった仕事がどれだけあるか。AIを前提として、業務そのものをどこまで変えられたか。
AIを導入した会社と、AIで仕事を変えた会社。
今はまだ、その違いは見えにくい。
しかし数年後、その差は生産性や会社の競争力にかなり大きく現れていると思う。
そして、その差を生む中心にいるのが、会社の業務を理解し、AIで置き換えられる場所を見つけ、実装までつなげられるキーユーザーなのではないかと考えている。