AIへの指示がうまくできなくても、社員は新しい技術を覚えていく――音声入力、CIMの実習、そしてピンク色のマニュアル
音声でAIへ何度も質問しながら、社員がCIMの操作を習得しています。土量計算や属性の受け渡しを試し、未確認事項もピンク色のマニュアルへ。得意なことを生かす仕事の任せ方と、社員の経験を会社へ残す意味を考えました。
当社では、社員全員が日常的に生成AIを利用しています。音声入力でAIへ話しかけることも、すでに日常の一部になっています。
私自身、以前から音声入力を積極的に使ってきました。社員にもその方法が広がり、今ではそれぞれが自分の仕事に合わせてAIを利用しています。小さなExcelの計算ファイルを作ることもあれば、ペットを作ってみることもあります。もちろん、図面や数量計算など、実際の設計業務に関する質問にも使っています。以前、ペット作りをきっかけにAIの使い方へ触れた記事にも、そうした様子を書きました。
ただ、全員がAIを上手に使いこなしているかといえば、決してそうではありません。指示がうまく伝わらず、何度もやり直すことがあります。説明されたとおりに操作したはずなのに、結果が違うこともあります。時には、AIに向かって文句を言いながら仕事をしている社員もいます。
それでも、以前はできなかったことが、少しずつできるようになってきました。
今回は、社員が取り組んでいるCIMの実習を通じて、AIを使った技術習得について考えてみたいと思います。BIM/CIMは、建設事業の情報をデジタル化し、関係者によるデータの活用や共有につなげる取り組みです。今回の記事では、その土台となる3Dモデルの作成や、属性・数量を扱う操作の学習を「CIMの実習」と呼んでいます。
社員の得意・不得意に合わせて、仕事を任せる
当社は少人数の設計会社です。社員にはそれぞれ得意な仕事があり、苦手なこともあります。同じ仕事をしていても、理解の仕方や覚え方が同じとは限りません。文章を読んで理解することが得意な人もいれば、実際に手を動かし、画面を確認しながら覚える方が得意な人もいます。
現在、当社ではCIMの習得を、一人の社員に重点的に担当してもらっています。この社員は、これまで身体を動かす仕事に携わってきた経験が多く、長年事務作業を続けてきたわけではありません。日常的にパソコンで大量の文章を入力してきた人ほど、タイピングや漢字変換に慣れているわけでもありません。
一方で、実際に操作し、画面上で結果を確かめながら作業を積み重ねることには強みがあります。そこで、立体形状を扱い、操作した結果を視覚的に確認できるCIMは、本人に合っているのではないかと考えました。
もちろん、CIMには、設計条件、座標系、データ形式、数量、成果品相互の整合性など、理解すべきことが数多くあります。それでも、まずは本人の強みを生かせる方法で、新しい技術に取り組んでもらうことにしました。
全員に同じ能力を求めるより、それぞれの得意なことを伸ばす方が、会社としても合理的だと考えています。今回残したいのも、社員の苦手な部分を並べることより、仕事の任せ方と道具の使い方によって、取り組める範囲がどう広がるかという話です。
AIと喧嘩しながら、CIMを覚えている
この社員は、ChatGPTとよく喧嘩しています。実際にAIへ向かって文句を言いながら、CADを操作していることがあります。
「言われたとおりにやったのに、違うじゃない」
「さっきと違うことを言っている」
「だから、そういうことじゃないんだって」
傍から聞いていると、なかなか激しいやり取りです。ただ、私はその様子を聞いて、単にAIの使い方が下手なのだとは思っていません。
頭の中では何をしたいのか分かっていても、画面を見ながら考えている内容を、AIへ正確に伝えるのは簡単ではありません。例えば、CADである形状を変更したいとき。本人は画面を見ているので、どの部分をどう変更したいのか、ある程度イメージできています。ところが、AIにはその画面の状態が十分に伝わっていない場合があります。
今どのコマンドを使用しているのか。何を選択しているのか。どの寸法を変更したくて、どの部分は変更したくないのか。そうした条件が説明から抜けると、AIは違う状況を想定して回答してしまうことがあります。
そして、AI側にも問題があります。ソフトウェアのバージョンを取り違えたり、実際には存在しないメニューを案内したりすることもあります。前の説明ではできなかったからと再度質問すると、今度は違う操作を指示される。本人はその説明を信じて操作するのですが、またうまくいかない。すると、さらに文句を言うわけです。
本人の説明が不足していたのか。AIの説明が間違っていたのか。実際には、両方が重なっている場合もあるのでしょう。効率だけを見れば、決して理想的な進め方ではありません。ただ、そこに、実際の仕事でAIを使うことの難しさが表れていると思っています。
まだ知らない技術について、何をどう質問すればよいのかを、最初から正確に説明すること自体が難しいのです。AIへの指示が上手にできないからといって、AIの利用に向いていないと判断するのは早いと思っています。
人間の指導者に何度も同じ質問をするのは、本人も遠慮するかもしれません。でも、AIには繰り返し質問できます。納得できなければ説明を求め直せます。多少文句を言っても、人間関係が悪くなるわけではありません。
もちろん、AIが間違ったことを何度も説明してしまう危険はあります。資料や実際の操作結果で確かめる必要があります。それでも、質問することをためらわず、試行錯誤を続けられる点には意味を感じています。
このやり取り自体が、言語化の練習にもなっているのではないかと思っています。最初は「これをこうしたい」としか言えなかったことも、説明し直すには、対象となる要素や操作条件を具体的に伝える必要があります。実際にその能力がどれほど向上したかを測定しているわけではありませんが、技術的な状況を整理する機会にはなっているかもしれません。
そして何より、これだけAIと喧嘩していても、本人は実習を続けています。何度も説明し直し、操作して確かめる中で、以前はできなかったことが一つずつできるようになってきました。私は、その過程も含めて評価したいと思っています。
音声入力で、質問する前の負担を減らす
当社では、社員全員が音声入力でAIを利用しています。私自身も、長い文章をキーボードで入力するより、話した方が速いと感じることが多くあります。ただ、その効果は社員によって違います。
今回CIMを担当している社員のように、これまで身体を動かす仕事の経験が多く、長年パソコンで文章を入力してきた人ほど慣れているわけではない場合、音声入力は特に大きな意味を持つと考えています。
頭の中には聞きたいことがある。しかし、それを一文字ずつ入力し、漢字変換をして、文章に整える。その作業自体に時間がかかれば、AIへ質問する前の段階で負担が生じます。音声入力なら、少なくともキーボードで文字を打ち、変換を繰り返す時間は減らせます。本人の入力速度を測定して比較したわけではありませんが、時間短縮の効果も大きいのではないかと感じています。
そして、音声入力にはもう一つの価値があります。最初から完成した文章を作らなくても、AIとの対話を始められることです。
人間同士の会話でも、最初から説明の順番がすべて整っているとは限りません。
「ちょっとこれをこうしたいんだけど」
そんな一言から話が始まり、途中で説明を追加したり、相手から質問されたりしながら、内容が明確になることがあります。私は、AIとの対話もそれに近い形でよいと思っています。
最初のプロンプト、つまりAIへ渡す依頼文で、すべてを説明する必要はありません。足りなければ次の発言で補い、AIが違うことを理解したら訂正する。途中で考えが変わったら、そのことを伝える。完璧なプロンプトを書こうとして、質問すること自体に時間をかけすぎる必要はないと考えています。
ただし、不完全な説明を繰り返すだけでは解決できない場合もあります。音声入力特有の誤変換もあります。特に技術用語、寸法、座標、数量、設計条件などは、正確に入力されているか確認する必要があります。
今回のCIM実習でも、本人はAIへ意図を伝えられず、何度も説明し直すことがあります。そのたびに長い文章をキーボードで入力しなければならなかったら、今ほど気軽に質問を繰り返せていたでしょうか。本人にとっての負担は、大きくなっていたかもしれません。
音声入力には、入力時間の短縮に加え、質問を続けやすくする意味もあると考えています。入力に費やす時間や負担を減らし、その分を考えること、試すこと、理解することに使う。当社が音声入力を重視している理由は、そこにあります。
資料とAIを往復し、操作して確かめる
CIMの実習では、川田テクノシステムの3D設計CAD、V-nasClairを使用しています。社員は、メーカーのマニュアルやYouTubeの解説動画を確認しながら、ChatGPTにも質問しています。複数の情報源を行ったり来たりし、実際の画面で確かめています。
例えば、古いチュートリアルに記載されているメニューが、現在使用しているV-nasClair 2026.2では見つからないことがあります。この実習では、クラシックレイアウトとアドバンスレイアウトの操作場所やメニューの違いも確かめながら、現在の画面でどの機能が対応するかを確認しています。
また、体積を持つ立体のソリッドを選択するつもりが、面を表すサーフェスを選択してしまうこともあります。IFCの読み込みでは、座標系に関する警告が表示されることもありました。
こうした問題にぶつかるたびに、メーカー資料を確認し、AIへ質問し、実際に操作して確かめています。AIの説明がもっともらしくても、操作できなければ先へ進めません。逆に、たまたま操作できたとしても、何を設定し、どのような結果が得られたかが理解できていなければ、実務に使う際に困ります。少し遠回りに見えても、本人が操作の意味を理解しながら進めることが大切だと考えています。
今回、社員が作成したCIMの実習マニュアルを改めて確認しました。そこには、地形モデルを作る機能拡張製品のLAND_Kit、J-LandXML、IFC、3D土量計算について、実際に操作した内容がまとめられていました。
J-LandXMLは地形や線形などの3次元設計データを、IFCは3D形状や属性などを受け渡すためのデータ形式です。メーカーのデータ交換機能の説明でも、これらの入出力やIFC属性の付与が紹介されています。実習では、次の内容に取り組んでいました。
- LAND_Kitで、標高情報を設定し、地形モデルを作成する。
- J-LandXMLで、地形や横断面を確認し、データを入出力する。
- IFCで、3Dモデルへ属性を付け、書き出してから再度読み込み、属性が保持されるかを確認する。
- 3D土量計算で、床掘り形状や埋戻し形状を作り、数量を計算する。
特に印象に残ったのは、3D土量計算です。練習用の形状で床掘り量と埋戻し量を計算し、埋戻し用ソリッドの体積とも比較していました。
| 確認項目 | 実習結果 |
|---|---|
| 床掘り量 | 52.3m³ |
| 埋戻し量 | 38.5m³ |
| 埋戻し用ソリッド体積 | 38.597250m³ |
| 埋戻し量とソリッド体積との差 | 約0.25% |
数値が近いことだけでは、計算結果が正しいと断定できません。マニュアルにも、中央の空洞部分が計算対象から完全に除外されているかは、さらに確認が必要だと記載されていました。
私は、こうした記録の仕方を評価しています。できたことと、まだ確認できていないことの両方を残す。成功した操作だけを並べるより、次の人がどこを確認すべきかまで分かる資料の方が、実務では役に立つからです。
現時点では社内実習の段階で、CIMを用いた受託業務の成果品として、一連の工程を完成させたわけではありません。それでも、以前はできなかった操作を本人が実際にできるようになっていることには、意味があると思っています。
9月21日の3Dモデル作成を図面理解の教材として考えた記事では、形を作る過程の教育的な意味を書きました。今回は、地形や属性、データの受け渡し、土量計算へと実習を進め、その操作と未確認事項をマニュアルへ残したところに、新しい変化があります。
そして、またピンク色のマニュアルができた
今回の実習については、ほかの社員も同じような操作をできるように、マニュアルを残してもらうことにしました。これは私からの指示です。ただ、完成した資料を見ると、本人らしさがよく表れていました。ピンクを基調とした、かわいらしいマニュアルです。
実は、こうした資料を作ったのは初めてではありません。以前、配筋図の加工長を確認するために、三角関数を使った小さなExcelの計算ファイルを社員たちに作ってもらったことがあります。AIへ相談しながら、寸法や角度を入力すると確認したい長さを計算できるようにしたものでした。
大げさなツールではありません。それでも、CADで測定した結果を別の方法で確認するための、実務的な工夫でした。そのExcelも、ピンク系の色使いや、かわいらしい絵文字が入ったものになっていました。8月30日の手計算チェックとExcelの工夫を書いた記事で紹介した経験です。
今回のCIMマニュアルにも、同じ雰囲気があります。私は、こういうところも悪くないと思っています。
会社として、技術的な正確さや記載すべき情報の統一は必要です。ただ、本人が使いやすいように工夫したり、自分らしい資料に仕上げたりすることまで、否定する必要はないと思っています。色使いだけで技術資料の価値を判断するつもりもありません。
むしろ、本人が試行錯誤して覚えたことを、自分なりに整理していることが伝わってきます。
覚えたことを、会社の技術として残す
私が社員にマニュアルを残してもらいたいのは、後から同じ操作を思い出すためだけではありません。本人が習得したことを、会社の共通知識として残したいからです。
当社では以前から、設計上の判断や作業中の気づき、社員が経験した失敗などを、社内ナレッジとして蓄積する取り組みを進めています。当初は、私が社員へ説明した内容を録音し、文字起こしを通じて整理することが中心でした。その後、社員自身がAIとのやり取りから知識を残すことや、蓄積した知識をAIエージェントで利用することにも取り組んできました。
知識を保存した後、更新した情報を社員が使えるように届ける方法も試しています。この経緯は、GitHubの共通版を社員の手元へ取り込んだ記事に書きました。
今回のCIM実習も、その取り組みの延長にあります。ただ、CIMは当社として、これから本格的に取り組もうとしている分野です。以前から3Dの作成や数量確認は試してきましたが、私自身がすべてのCIM操作を習得して、社員へ教えているわけではありません。
社員がメーカー資料や動画、ChatGPTを使って、自分で操作を覚えている。そして、その成功や失敗をマニュアルに整理している。これまで進めてきた知識の共有に、社員が新たに習得したCIMの知識も加わり始めているということです。
今後は、これらのマニュアルをAIエージェントでも参照できるようにしたいと考えています。確認済みの操作、適用条件、未確認事項を区別し、原本を残したうえで活用する必要があります。元請会社から受ける条件や、求められる成果品に適用できるかは、人が確かめ、必要な事項は確認を求めます。実習の結果を、そのまま受託業務の正解として扱うつもりはありません。
ここまでを見ていて、AIへの指示の上手さだけでは、取り組みの成果を測れないと改めて感じました。条件を整理して説明できれば、無駄なやり取りは減らせます。それに加えて、AIの説明に違和感を持つこと、実際のCADで確かめること、別の方法を試すこと、計算結果を照合することも、実務では大切です。
社員にAIを使ってもらう目的は、まず、本人が何をできるようになったかを見ることにあります。そして、その経験をほかの社員も利用できる形で残せるか。個人の学習を会社の技術力へつなげるには、そこまで考える必要があると思っています。
以前と比べれば、私に質問する前に、まずAIへ相談する場面も増えてきました。代表の判断が必要な場面は今もありますし、AIの回答をそのまま正解として扱うことはできません。それでも、社員が自分で調べ、試し、考える機会が増えていることは感じています。
今回も、受託業務でCIMの成果品を作成するには、さらに検証が必要です。ただ、社員は以前できなかった操作を覚え、その経験をマニュアルとして残すところまで進みました。そのマニュアルは、またピンク色でした。でも、その中には、試した操作、失敗したこと、うまくいった方法、まだ確認できていないことが記録されています。
私は、そういう資料が会社に増えていくことに意味を感じています。社員がAIを使いながら、CIMでできることを増やし、その経験を会社に残している。 今回見えてきたのは、その変化です。
AIへの指示がうまく伝わらない場面があっても、質問し、試し、技術を学ぶことはできます。音声入力は、その試行錯誤を続ける負担を減らしているのかもしれません。
AI導入の効果を、何時間短縮できたかという数字で評価することも必要でしょう。ただ、私はそれだけで評価したいとは思っていません。社員それぞれの強みを生かし、できることを増やし、その経験を会社に残していく。今の当社では、そうした変化が少しずつ積み重なっています。