用意したテキストは、ほとんど使わなかった――初めてのAI講習で見えた、講師が話すべきこと
取引先の建設コンサルタントで初めてAI講習を担当しました。12ページのテキストを用意しましたが、参加者はすでに実務でAIを活用中。その場で講習を組み替え、貸与資料の整理とプロンプト・コンテキストの実演から学んだことを記録します。
取引先の建設コンサルタントで、初めて社外向けのAI講習を行いました。2時間の講習に向けて、AIと一緒に12ページのテキストを作り、紙で持って行きました。
ところが、最初に参加者の使い方を聞いてみると、用意した説明は前段すぎると分かりました。テキストはほとんど使わず、その場で出てきた仕事の話から進めることになりました。
以前の技術ノートでは、社外の方にAIをどう伝えるかを考えました。今回は、実際に講習をしてみて、考え方がどう変わったかを記録します。
12ページのテキストを持って、初めての社外講習へ
取引先がChatGPT Businessを13アカウント契約し、その利用者向けに、当社が月1回、2時間の講習を行うことになりました。社内で社員とAIの使い方を話すことはありましたが、社外で講習をするのは初めてです。最初は何を話せばよいのか、そこから分かりませんでした。
まずAIと一緒に作ったテキストには、ChatGPT Businessの基本、入力してよい情報、頼み方のコツ、業務での使いどころ、実習用のワークシートを入れました。A4で12ページです。紙で配るための一通りの内容はそろいました。
作成中にも、私の経験に合わせて直したところがあります。「あなたは○○の専門家です」という役割の指定から始める説明より、今どの仕事をしていて、何をしたいのかを伝える方を重視しました。発注者へ提出する打合せ記録簿の例も、今回想定した「〜とする」と言い切る文体へ直しました。
それでも、配布した後に見落としが一つ見つかりました。テキストに「元請けへの最終回答」という言葉が残っていたのです。講習の相手は、その元請けの立場にある会社です。AIが当社の立場で書いた文章は、誤字もなく自然に見えましたが、読み手の立場とはずれていました。
これは、そのまま講習のネタになる。
そう思いました。文章がきれいに整っていても、誰の立場で使うのかは、人が確認しなければなりません。
当日の朝、話す内容を組み直した
講習当日の朝、まだベッドの上で、スマートフォンのAIアプリに音声で話しかけながら流れを考えていました。
テキストを読めば分かる内容を、2時間かけて説明するだけでよいのだろうか。私は建設コンサルタントの仕事に30年ほど関わってきました。実際にAIを使って、どこで役立ち、どこで確認が必要だったかを話す方が、参加者の仕事につながると思いました。
軸にしたのは、プロンプトとコンテキストです。プロンプトは、その場でAIへ何をどう頼むか。コンテキストは、資料や仕事の前提など、AIが答える際に参照する情報です。チャットで一問一答するだけではなく、仕事の前提をどう渡すかまで見せたいと考えました。
最初に利用状況を聞き、一人ずつ実際の使い方と「やりたいこと」を聞く。それに対して、当社で試してきたことやデモで答える。朝のうちに決めたのは、その流れです。ここまでキーボードには一度も触っていません。
参加者は、すでに仕事で使っていた
講習の最初に、ChatGPTを日常的に使っているか、画像やExcel・Word・PDFを渡したことがあるか、プロジェクトやWorkを使ったことがあるかを聞きました。プロジェクトは関連する会話や資料をまとめる場所、Workは資料を使った複数工程の仕事を任せる機能です。
手を挙げてもらうと、日常的な利用、画像の添付、文書や表の受け渡しは全員が経験していました。プロジェクトは半分ほど、Workもほとんどの人が使っていました。契約からまだ2週間ほどです。
用意してきたテキストは、前段すぎた。
その場でそう感じました。一人ずつ使い方を聞くと、協議資料の添削と説明用のメモ、比較表や打合せメモの作成、数量の算式を入れるExcelマクロ、測量の縦断図PDFから測点と標高をCSVへ起こす作業など、すでに実務の例が出てきます。業務計画のデータからプレゼンテーション資料を作る、就業規則と法改正の内容を照らし合わせる、初めて担当する仕事で文献を読ませる、といった使い方もありました。
プレゼンテーション資料の例では、フォントや色が少し違い、最後は手で直したそうです。私は、それでよいと思いました。AIに七、八割まで進めてもらい、人が確認して仕上げる。参加者は、もうそのような使い方を始めていました。
次に「これからAIでやりたいこと」を聞くと、業務計画書の作成、配筋図の数量拾いとチェック、設計書から積算・内訳書への整理、CADスクリプトによる旗揚げ作図、道路の完成予想図が挙がりました。現在受けている仕事で必要な、過去5年分・約40業務にわたる貸与品の整理も、その一つです。
できそうだと感じるものは多くありました。ただ、すぐに実務で使えるかは別です。1日10分の作業を短くする仕組みに何十時間もかかるなら、見合わないかもしれません。まずは量が多く、負担の大きい仕事から試す方がよいと伝えました。
貸与品の整理を、その場で試した
貸与品の話が出たので、その場で報告書のフォルダーをWorkに読ませてみました。現在受けている仕事で整理が必要な対象は約40業務分です。このデモで扱ったのは、そのうち7〜8業務分ほどでした。
このフォルダーの中の報告書を探して、各業務の概要を一覧で欲しい。A3で印刷できるExcelで作ってほしい。
頼んだのは、この程度です。数分後、業務番号、業務名、工期、対象範囲、目的、主な実施内容、課題や留意点、参照ページを並べたExcelができました。「概要」に含める項目を細かく指定していなくても、確認の出発点になる一覧が出てきたことに驚きました。
担当者からは、資料収集整理は実際の業務で費用が計上される工程だという話も出ました。単にAIで数分短くするという話より、業務の工程をどう進めるかという話になったのです。
もし40業務分の報告書を人が一から読み、2週間かかる作業を1時間にできるなら、費用の見方も変わります。ただし、これは講習中に考えた仮定です。今回は7〜8業務分ほどで一覧ができたところまでで、40業務全体の処理時間や、内容の正確さは測っていません。
参照ページが示されていても、AIが拾った内容は原本と照らして確認する必要があります。それでも、ゼロから開いて読むのと、一覧を手掛かりに確認を始めるのとでは、仕事の進め方が変わりそうだと感じました。
頼み方と前提を変えると、答えも変わった
朝に考えたプロンプトとコンテキストの違いも、目の前で試しました。
参加者の「やりたいこと」のメモを、まず「整理してほしい」とだけ頼みます。次に別のチャットで、表の形式と、「今日できる」「仕組みにすればできる」「今は難しい」という分類を指定しました。判断できないところは勝手に埋めず、「要確認」と書くようにも伝えます。返ってきた表は、最初より使い道がはっきりしました。
ただ、人名の欄には「要確認」が残りました。元のメモには名字しかなく、部署が分からなかったためです。
そこで、その場でプロジェクトを作り、出席者の名前と部署を記したファイルを入れました。同じメモと同じ頼み方でもう一度試すと、「要確認」が消え、部署の欄が埋まりました。
頼み方は同じでも、参照できる前提を足すと答えが変わる。
コンテキストの意味を、説明だけでなく、その場の結果で見せられました。ただし、欄が埋まったことと、その情報が正しいことは別です。元の名簿やメモと照らして確かめる必要があります。
最後には音声入力の話もしました。当社では机にマイクを置き、AIとのやり取りの多くを声で行っています。文章を打つより、背景や条件を続けて話しやすいと感じます。誤変換をAIが前後から補うこともありますが、固有名詞や数字は自分で確認します。
今日の講習の準備も、朝、ベッドの上でAIと会話しながら進めました。
受講者にはそう話しました。キーボードの前に座るまで仕事を始められない、という自分の思い込みも少し変わっています。
次回は、参加者の仕事から始めたい
初回を振り返ると、直したい点もあります。貸与品のデモでは、その場で使うフォルダーを探すのに時間がかかりました。次回は一つ、事前に試せる資料を用意しておきたいと思います。
プロンプトとコンテキストの実演に使ったメモも、今回は手で打ったものです。音声入力のメモなら誤変換が出て、前提を追加する前後の違いを、もっと具体的に示せたかもしれません。
12ページのテキストは、この参加者には重かったとも感じます。頼み方の型と、入力してよい情報のルールを1枚にまとめた方が、手元で使いやすいかもしれません。
今回の参加者には、AIの基本操作を最初から順に教える必要はあまりありませんでした。講師として私が話せるのは、実際の業務のどこにAIを入れるか、チャットで終わらせずにどう仕組みにするか、業界や会社による立場・書き方の違いをどう伝えるか、といった部分です。
テキストを作ったのはAIでした。でも、その中の「元請け」というずれに気づいたのは人です。用意した答えを話すより、参加者が持ってきた仕事について、その場で一緒に試す。初回の2時間で、次回の講習の進め方が見えてきました。