AIを使っていたら、結局グループウェアの話に戻ってきた――AIを仕事の一部にするには、会社の情報がつながっている必要がある
個人がAIを使えるようになった先に、会社のメール、資料、議事録、会話をどうつなぐかという課題が見えてきました。Google WorkspaceとOfficeの使い分けや、電話で消える情報を残す方法を考えながら、AIを仕事の一部にするための情報基盤を整理します。
前回の技術ノートでは、生成AIを人にどう伝えるかを考えました。ChatGPTの機能を順番に説明するより、まず自分の仕事の中にある「面倒」を見つけてもらう。実際に使って疑問が出たら、一緒に考える。その方が自分には合っているのではないかと思っています。
ただ、その先を考えると、別の問題が見えてきます。個人がAIを使えるようになっただけで、会社としてAIを使えるようになったと言えるのだろうか。 最近は、むしろその先の方が重要ではないかと感じています。
一つの資料を渡すだけでは、仕事の一部分しか見えない
生成AIを使い始めた頃は、必要な資料をその都度渡していました。「このPDFを読んでほしい」「このExcelを確認してほしい」「この文章を要約してほしい」。それだけでも十分に便利でした。
しかし、仕事は一つの資料だけでできているわけではありません。メールにはそれまでの経緯があり、打合せ記録には決まったことが残っています。別の資料には過去の検討があり、チャットでは小さな確認が行われます。予定表には、次に誰と何を話すかが書かれています。
人間はそれらを頭の中で何となくつなぎながら仕事をしています。AIに一つの資料だけを渡したときは、「このメールも関係があります」「前回の記録も見てください」「こちらが最新版です」と、人が背景を補う必要があります。これでも使えますが、まだAIは「渡されたものを処理する道具」に近いと思います。
複数の情報をたどれると、質問が変わる
最近、複数の情報をAIから参照できる環境で仕事をさせてみて、違いを強く感じました。メールにはこう書いてあり、資料には別の条件がある。議事録には宿題が残り、以前の記録には判断の理由がある。それらを必要に応じてたどれるようになります。
すると「この資料を要約して」だけでなく、こんな聞き方ができます。
この仕事について、これまで何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか。
「昨日から何が変わったのか」「次に確認すべきことは何か」「判断の根拠になった資料はどれか」とも聞けます。私が最近感じている便利さは、単純な回答能力より、この仕事の経緯をたどる手掛かりが増えることにあります。
もちろん、接続しただけでAIがすべての経緯を理解するわけではありません。参照できる範囲はサービス、契約、設定、本人の権限で変わります。見つけた資料が最新版か、読み落としがないか、今回の条件に合うかは人が確かめます。少なくともGoogle Workspaceの公式説明でも、Geminiが利用できるデータは管理者の設定や利用者のアクセス権に制約されるとされています。
メール、議事録、資料、チャットの保存自体は以前からできました。ただ、これまでは人が場所を探し回り、最後は頭の中でつないでいました。その一部をAIに手伝ってもらえるなら、散らばった情報の意味も変わってきます。AIを使う話をしていたはずなのに、自然とグループウェアや情報管理の話へ戻ってきました。
結局、会社の情報をどこに置くのか
メールはどこにあるのか。資料と議事録はどこへ残すのか。社員同士のやり取りはどこで行うのか。誰が何を見られるのか。最新版はどれか。退職や異動の後も、仕事の経緯は会社に残るのか。そして、その情報をAIがどこまで参照してよいのか。
結局、メール、ファイル共有、アカウント、権限、グループウェアを考える必要が出てきます。今は、これをAI導入の遠回りとは思いません。仕事にAIを入れるなら、先に整理すべき部分なのかもしれません。
当社はGoogle Workspaceを使っています。会社の情報基盤として使うなら、メール、予定、ファイル、チャット、会議、アカウントをその環境へ寄せていく方が、自分には自然に感じます。
ただし、すべての文書作成ソフトをGoogleのものへ変える話ではありません。建設コンサルタントの実務ではWordやExcelが重要です。成果品の様式、数量計算書、過去成果などを考えると、Microsoft Officeを簡単には手放せません。私自身もGoogleドキュメントやスプレッドシートを中心に仕事をしているわけではありません。
情報基盤はGoogle Workspace、成果品や実務ではWordやExcelも使う。 そういう使い分けでよいと思っています。大事なのは文書作成ソフトの名前より、会社の情報をどこへ集め、どれを正として扱うかです。
メールも「Outlookが悪くてGmailがよい」という話ではありません。Microsoftの環境を会社の基盤にするなら、そちらへ情報を集める方が自然でしょう。Google Workspaceを基盤にするなら、メールもGmailへ寄せた方が、ほかの情報との関係を考えやすい。どちらを選ぶにしても、使い勝手だけでなく、そのメールが会社のほかの情報とどうつながるかを見るようになりました。
電話で交わした大事な話が、記録から抜ける
私はこれまで、社員への説明を録音し、文字起こしし、専門用語がどれだけ正しく残るかを比べ、後から検索できるように整理してきました。その場だけの説明を、会社の技術情報として残したかったからです。
そこまで考えると、逆に気になるものがあります。電話です。
電話は今でも便利です。急ぎの確認なら、文章を何往復もするより数分で済むことがあります。声を聞きながら話す方が誤解しにくい場面もあります。建設コンサルタントの仕事でも、重要な連絡手段です。
ただ、何も残さなければ、会話は終わった瞬間に消えてしまいます。メール、チャット、資料、議事録は残っていても、電話で話したことだけは「昨日、確かこういう話だった」となりやすい。条件変更、確認事項、次回までの宿題、工程や数量に関する話など、後から重要になる情報も電話に含まれます。
AIが会社の情報をたどれるようになるほど、電話で交わした情報だけが抜け落ちることを、以前よりもったいなく感じます。電話をなくしたいのではありません。口頭で交わした重要な情報を、どう会社の記憶へ戻すか。 そこを考えたいのです。
Meetで話す方がよい場面もあるかもしれない
画面共有や顔を見る必要がない話でも、普通の電話ではなくオンライン会議の仕組みを使う方がよい場面はあるかもしれません。目的は会議の形を取ることではなく、会話を記録として残しやすくすることです。
Google Meetには、条件を満たす契約で会議メモをGoogleドキュメントに整理する機能があります。録音や文字起こしも含め、利用できる機能は契約、管理者の設定、会議の設定によって異なります。相手への説明や同意、記録の保存先と閲覧権限も確認しなければなりません。
会話が文字になり、要点とともに会社の記録へ戻れば、後で人が確認し、許された範囲でAIからも参照できる可能性があります。ただ、会議メモだけで元の発言を確かめたり、正確な議事録の代わりにしたりはできません。設計条件や数量のような重要事項は、元の発言や資料へ戻って確かめ、必要な判断は元請会社へ確認します。
電話の速さを保ちながら「残らない」を補えるかどうかは、これから試したいところです。すべての電話をMeetに置き換えたり、何でも録音したりしたいわけではありません。
残す目的は、仕事の情報をこぼさないこと
メールを大量に残したいわけでも、議事録を増やしたいわけでも、会話をすべて文字起こししたいわけでもありません。仕事の中で発生した重要な情報を、会社の記憶からできるだけこぼしたくない。 そのためにメール、チャット、資料、議事録、録音や文字起こしがあります。
情報を保存するだけなら、以前からできました。AIが入ると、許された情報から必要な手掛かりを探し、仕事の経緯を整理する助けになる可能性があります。ただし、記録が古い、内容が誤っている、権限が広すぎるといった問題も一緒に持ち込みます。何を残し、誰が見られ、いつ見直すかという運用まで含めて情報基盤なのだと思います。
AIを意識しなくなるところまで、つながるだろうか
前回考えたように、まずは社員にAIを使ってもらい、自分の仕事の面倒を見つけてもらうことが必要です。その先に目指すものは、一人ひとりがChatGPTを上手に使える会社だけではないのかもしれません。
社員が仕事をする。その過程で重要な情報が残る。会社の中で必要な人が見つけられる。AIも許された範囲で資料を探し、過去の経緯と未確認事項を人と一緒に整理する。AIを会社の仕事の中に入れるとは、そこまでつなげることなのだと思います。
今は「この仕事ではChatGPTを使おう」「ここではGeminiを使おう」と意識しています。でも、いつかはメールを読み、資料を探し、人と話す途中に自然にAIが入り、使うこと自体をそれほど意識しなくなるのかもしれません。まだ完成した運用ではなく、これから試す方向です。
AIを使う話をしていたはずなのに、結局グループウェアや情報管理へ戻ってきました。でも今は、それでよかったと思っています。情報基盤を整えた先で、AIが自然に使える会社をつくる。 目指したいのは、そういう状態なのかもしれません。