ナレッジ・社員教育

社員指導ナレッジが300件を超えた。一度の指導を、一度きりで終わらせない

社員指導から整理した社内ナレッジが300件を超えました。録音、文字起こし、AI整理を続けた現在地と、一度残した技術判断を社員やAIエージェントが何度も使うための次の課題を振り返ります。

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2026年に入ってから続けてきた社員指導のナレッジが、300件を超えました。

ここでいう300件は、単純な録音本数ではありません。

社員への指導や確認の中から、後から参照する価値があるものを整理し、一つのナレッジとして登録した件数です。

最初から300件を目標にしていたわけではありません。

始まりは、もっと日常的な困りごとでした。

社員が複数いると、それぞれ担当している仕事も、経験も、理解している範囲も違います。以前説明した内容について、

これは誰に話したんだったか。

この人には、どこまで説明したんだったか。

が曖昧になることが増えてきました。

そこで、社員への技術指導を音声で残すことを始めました。

なぜ音声で残しているのか、そこに何を残したいのかについては、以前の「なぜ当社は社員指導を録音しているのか」をはじめ、これまでの技術ノートでも何度か書いてきました。

今回は、その取り組みを続けた結果として、現在どこまで来たのかを振り返ってみます。

300件という数字より、その中に何が残っているか

300件という数字だけに、大きな意味があるとは思っていません。

ただ、仮に1件あたり30分の指導だったとしても、

300件 × 30分 = 150時間

になります。

8時間で換算すれば、約19日分です。

実際には30分より長い指導もありますが、時間が長ければ価値が高いという話でもありません。

大事なのは、その時間の中に何が含まれているかです。

社員への技術指導では、「ここを直してください」「この数字にしてください」だけを話しているわけではありません。

なぜその数字に違和感を持ったのか。

どの図面とどの図面を見比べたのか。

過去の成果をなぜそのまま信用しなかったのか。

最初に考えたことが違うと分かり、どこで判断を変えたのか。

基準が見つからないときに、何を仮説として考えたのか。

まだ確認できていないことを、なぜ未確認のまま残したのか。

こうした話が含まれています。

完成した図面や計算書だけでは、こうした判断の途中はほとんど残りません。マニュアルにも書かれにくい部分です。

150時間という数字そのものより、その中に、成果品やマニュアルだけでは残りにくい技術判断が積み重なっていることに意味があると感じています。

録音から、会社の知識へ

始めた当初は、誰に何を説明したのかを残す意味合いが大きかったと思います。

ただ、録音を続け、文字起こしし、AIで整理していくうちに、少し見え方が変わってきました。

社員への指導の中には、自分自身が仕事をするときに、何を見るのか、どこを疑うのか、何と何を照合するのか、どこまで確認すれば判断できるのかといった、日常の技術判断そのものが含まれています。

それを後から探せる形にすると、単なる「誰に何を教えたか」という履歴だけではなくなります。

一度話した技術判断を、会社に残しておく。

そんな意味を持ち始めました。

ちょうど同じ頃、社内ではGoogle Workspaceの導入やセキュリティ対策、事業継続、DX認定など、会社の仕組みそのものも見直していました。

最初からすべてを一つの構想として進めていたわけではありません。

目の前にある課題を一つずつ試していった結果、社員指導の記録も、少しずつ会社の知識基盤の一部になっていきました。

すでに「残す」だけではなくなっている

現在は、録音した音声を文字起こしし、AIで内容を整理し、ナレッジ番号を付け、索引へ登録するところまで、かなり自動化しています。

内容についても、樋門や護岸といった工種、数量や図面照査といった作業内容、主な論点や判断の要点などから、後で探しやすい形に整理しています。

Gemini Notebookから参照できるようにもしており、社員が私のところへ質問に来る前に、「過去に似た指導がなかったか」を確認する使い方も少しずつ始まっています。

これまでの、

分からない → 聞く → 説明する

という流れに、次の流れが加わり始めています。

過去の記録を使う流れ
  1. 分からないことが出るまず、現在の作業で何が分からないのかを整理する
  2. 過去の記録を確認する似た工種、作業内容、論点の指導がなかったかを探す
  3. 自分なりに考える過去と今回で同じ条件、違う条件を比べる
  4. 必要な部分を確認する過去記録だけで決めず、判断が必要な事項を確認する

まだ、これによって私の指導時間が大きく減ったわけではありません。

むしろ最近は、一つの指導が45分から1時間近くになることもあります。

それでも以前との違いはあります。

その45分や1時間が、その場だけで消えなくなったことです。

仮に150時間分の指導が残っているのであれば、次に同じような場面があったとき、また150時間を最初から説明し直す以外の選択肢が生まれます。

必要な部分を探し、比較し、そこから考えることができます。

一人への指導を、一人だけのものにしない

300件まで蓄積されてくると、次に考えたいことも見えてきました。

現在の記録には、「誰に対して行った指導なのか」という情報も残っています。履歴としては必要です。

ただ、別の社員からすると、「これは自分への指導ではない」と感じてしまう可能性があります。

実際には、ある社員への指導の中に含まれている、

過去成果をそのまま信用しない。

同じ方法でもう一度確認するのではなく、別の方向から照査する。

数値が合っていても、考え方まで正しいとは限らない。

といった考え方は、別の社員や別の案件でも使えるものです。

そこで今は、社員ごとの履歴として残すだけでなく、

  • 樋門や護岸といった工種ごと
  • 数量、図面照査、積算といった作業内容ごと
  • 確認の仕方や判断の考え方ごと

といった別の切り口から、同じナレッジを使うことも考えています。

元の記録は一つのまま、使う目的によって入口を変えるイメージです。

社員指導だけの話ではないかもしれない

当社の場合は、社員への日常的な技術指導が入口でした。

ただ、300件を振り返ってみると、この考え方は社員教育だけに限らないようにも感じています。

例えば、ベテラン技術者が若手へ普段説明していること。担当者しか知らない注意点。失敗した経験から身についた確認方法。図面やマニュアルには残っていない判断理由。

そうしたものを、改めて何十ページものマニュアルとして書き起こそうとすると、大きな仕事になります。

一方、日常業務の中では、すでに誰かに説明しています。

その会話を残し、後から整理し、探せるようにする。

そう考えると、こうした方法は技術承継にも応用できる部分があるのかもしれません。

もちろん、録音しただけで技術承継ができるわけではありません。

ただ、普段すでに行っている仕事や指導を入口にできるという点には、可能性があると思っています。

一つの記録を、何度使えるか

300件まで来て、最近考えるようになったのはここです。

一つの記録には、いくつもの使い道があります。

  • 本人が後から振り返る
  • 別の社員が類似した仕事の参考にする
  • 工種や作業内容ごとの教材として使う
  • 技術承継に使う
  • Gemini Notebookで過去の類似事例を探す
  • 日々のAIとの壁打ちに参照させる

さらに、その先では、蓄積したナレッジをAIエージェントが参照し、過去の類似事例を探したり、確認すべき点を整理したりする使い方も考えています。

もちろん、過去事例をそのまま今回の答えにするわけではありません。条件の違いは人が確認し、判断が必要な事項は元請会社へ確認を求めます。

すべてを一度に実現できるわけでもありません。

データ量が増えれば、AI側の上限もあります。全部を一つの場所へ入れるのが良いとも限りません。

社員別、工種別、作業内容別など、使う目的によって分けた方がよいものもあると思います。

ただ、一つの音声から作った一つのナレッジを、一つの用途だけで終わらせる必要もありません。

300件まで蓄積したことで、

「どう残すか」から、「一度残した知識を何度使えるか」

へ、考えるテーマが少し変わってきました。

300件は、現在地

300件を目標にしてきたわけではありません。

これからも、件数を増やすことだけを目的にするつもりはありません。

技術判断には多くの種類がありますし、同じテーマでも条件が変われば判断も変わります。

ただ、2026年の初め頃から録音を始め、文字起こしを試し、AIで整理し、自動化し、社員が実際に過去の記録を参照するところまで来ました。

振り返るには、300件という数字はちょうどよい節目だったと思います。

最初は、一人の社員への一度の説明でした。

それを残す。

整理する。

探せるようにする。

別の社員も使う。

別の仕事でも使う。

AIも使う。

一度の指導が、一度きりで終わらず、少しずつ会社の知識になっていく。

300件まで来て、その先の使い方がようやく具体的に見え始めました。

一人への一度の指導を、一度きりで終わらせない。

これからは、300件という数を増やすこと以上に、今ある知識をどう何度も使える形にしていくか。

そこを、また一つずつ試していきたいと思っています。