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BIM/CIMは本当に設計を効率化するのか ― 河川設計の実務から考える現在地と先行投資

河川設計で3次元モデルを扱う中で見えた、詳細度、数量算出、2Dとの二重管理、作成費用の関係を整理し、BIM/CIMへどこまで先行投資するかを考えます。

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当社では、河川・河川構造物分野でのBIM/CIM活用を見据え、3次元CAD環境の整備や、実務を想定した技術検証を進めています。

樋門・樋管などの構造物を3次元化する。河川横断図から河道や堤防の連続した地形モデルを作る。実際の設計実務の中で、どのように利用できるのかを少しずつ確認してきました。

3次元モデルを実際に扱ってみると、確かに分かりやすいと感じます。

構造物を任意の方向から確認できますし、河道や堤防と組み合わせれば、2次元図面だけでは伝えにくい位置関係も視覚的に把握できます。

一方で、取り組むほど気になることも出てきました。

これは、設計実務そのものをどこまで効率化するのだろうか。

現在は、3次元モデルを作っても2次元図面がなくなるわけではありません。利用目的に合わせて詳細度を抑えれば、モデル化しない情報も残ります。数量も、3次元モデルが持っている情報の範囲でしか算出できません。

そうなると、従来の設計成果に加えて、新たに3次元モデルを作成することになります。

BIM/CIMは建設生産全体の効率化を目指しているはずなのに、実際に作る側から見ると、効率化より先に「作業が一つ増えた」ように感じる場面がある。

では、これは単に取り組み方の問題なのでしょうか。それとも、現在のBIM/CIMそのものが、まだ移行途中にあるからなのでしょうか。

今回、国土交通省や北海道の資料も確認しながら、河川設計の実務支援に携わる立場から、BIM/CIMの現在地と、どこまで先行投資するべきなのかを考えてみました。

国が目指しているのは、3Dモデルを作ることではない

国土交通省はBIM/CIMを、「3次元データを基軸とする建設生産・管理システム」を実現するための取り組みとして位置付けています[1]

構造物を立体的に表示すること自体が最終目的ではありません。調査・測量、設計、積算、施工、維持管理の各段階で情報をデジタルデータとして連携し、一度整理した情報を後工程でも利用する。それによって建設生産・管理システム全体を効率化する考え方です。

2026年3月の「BIM/CIM取扱要領」にも、活用目的によって必要なモデルの範囲や精度は異なるため、過度に精密なモデルを作ることが目的にならないよう注意する必要がある、と明記されています[6]

つまり、細かい3Dを作ること自体がBIM/CIMではありません。

国の直轄事業と北海道の河川設計では、制度上の位置付けが異なる

国土交通省の直轄土木業務・工事では、2023年度からBIM/CIMの原則適用が始まり、その後も基準・要領の見直しが続いています。2026年3月には実施方針と取扱要領が改定され、3次元モデルと2次元図面の整合確認方法も新たに示されました[1]

一方、北海道内の河川設計すべてが、国の直轄事業と同じ状況にあるわけではありません。

北海道建設部は2026年8月に「北海道建設部測量調査設計業務等共通仕様書(令和8年10月版)」を公表し、同年10月1日以後に入札する業務へ適用するとしています[2]。河川設計について、3次元モデル作成が共通仕様として一律に要求される状態ではありません。

ただし、北海道側にBIM/CIM成果を受け取る仕組みがないわけでもありません。

「情報共有・電子納品運用ガイドライン【業務編】」には、BIM/CIM成果を格納するBIMCIMフォルダがあり、その中に実施計画書などのDOCUMENT、統合モデルなどのMODEL、構造物モデルを格納するSTRUCTURAL_MODELなどの体系が用意されています[3]

北海道農政部でも、2024年4月19日以降に入札する業務のうち、活用目的が明確で効果が期待される測量・設計業務を対象に「BIM/CIM活用業務」を試行しています[4]

北海道でも受け皿や試行はすでに始まっています。一方、北海道建設部の河川設計では、現時点でBIM/CIMによる3次元モデル作成が共通仕様として一律に求められているわけではありません。

国の直轄事業との制度上の違いは、当社が技術投資を考えるうえで無視できません。

3次元モデルは確かに分かりやすい

BIM/CIMのメリットとして、最も分かりやすいのは可視化です。

樋門・樋管であれば、函体、胸壁、翼壁などの構造を立体的に確認できます。河川地形と組み合わせれば、堤防、河道、構造物の位置関係も一つの空間の中で見ることができます。

発注者との協議、施工段階への情報伝達、地元説明など、2次元図面だけでは伝わりにくい内容を共有するうえで、3次元モデルは非常に有効だと思います。

ただ、設計実務という視点から見ると、少し違った面もあります。

河川設計に長く携わっている技術者は、平面図、縦断図、横断図、構造図などを見ながら、それらを頭の中で立体として組み合わせています。図面から構造物の立体形状を把握すること自体が、日常的な設計行為の一部になっています。

もちろん、3次元化することで初めて気付く取り合いや、複雑な箇所を確認しやすくなるなど、設計者自身にメリットがある場面もあります。

しかし「立体的で分かりやすい」ということだけを目的にした場合、そのメリットを最も大きく受けるのは、必ずしもモデルを作成する側とは限りません。

発注者が確認する。施工者が施工時の取り合いを理解する。地元説明に利用する。後工程で維持管理に利用する。

3次元モデルには、設計段階を越えたところで価値を発揮する可能性があります。

ここで気になるのが、そのモデルを誰が、何のために使うのかという点です。

3次元モデルを作ることそのものではなく、誰がどの工程で利用し、どのような効果を得るのか。ここを明確にしなければ、BIM/CIMにどこまで人工を掛けるべきなのかも決めにくいように思います。

「詳細度」という考え方も重要になる

ここでもう一つ重要なのが、3次元モデルの「詳細度」です。

国土交通省の取扱要領では、3次元形状の詳細度を100、200、300、400、500の5段階に分けています[6]

例えば詳細度300は、附帯工などの細部構造や接続部を除き、対象の外形形状を正確に表現するモデルです。詳細度400では、詳細度300に加えて、利用目的に応じて附帯工や接続部などの細部構造を正確に表現します。対象によっては配筋などもモデル化します。

重要なのは、BIM/CIMだからといって、すべてを詳細度400や500で作ることが求められているわけではないことです。

必要な詳細度は利用目的によって異なります。附属資料の推奨項目一覧では、施工ステップの確認は詳細度200~300、概算数量算出は200~400とされています[7]

また、橋梁、トンネル、函渠の干渉確認などでは詳細度300~400を例とし、モデル作成の手間と、事前検討によって得られる効果を見極めるよう示しています[7]

概算数量についても、検討段階で数量を把握することは費用対効果が大きいとする一方、積算へ利用する場合には、詳細な情報を入力する手間と、自動算出による省力化の効果を見極めるよう書かれています[7]

国の資料を読んでも、「作れるだけ細かく作る」という考え方ではありません。

何に利用するのか。そのためには、どこまでの詳細度が必要なのか。そのモデルを作成する人工に対して、どの程度の効果が期待できるのか。そこまで考えて活用することが前提になっています。

つまり、高度な3次元モデルを作れることと、費用対効果の高いBIM/CIM活用は、必ずしも同じではありません。

詳細度を限定すれば、3Dだけでは持てない情報も残る

利用目的に必要なところだけモデル化する考え方は合理的です。ただし、詳細度を限定すると、別の問題も見えてきます。

モデル化していない情報は、当然ながら3次元モデルから取得できません。

例えば、コンクリート構造物の主要な外形を正確なソリッドとして作成していれば、その形状からコンクリート体積を算出できる可能性があります。

しかし、鉄筋をモデル化していなければ、その3次元モデルから鉄筋数量を求めることはできません。細部構造をモデル化していなければ、その部分についても別の情報が必要です。

つまり、3次元モデルから取得できる数量は、そのモデルが持っている情報の範囲に限られます。

これは当たり前のことですが、2Dから3Dへの移行を考えるうえでは重要です。

3Dですべてを表現しようとすれば、モデル作成の人工は大きくなります。一方、費用対効果を考えて詳細度を限定すれば、モデルに持たせなかった情報は、2D図面や数量計算など別の方法で補うことになります。

国土交通省の最新基準でも、積算での活用を目的とした3次元モデルの作成方法が別途用意されており、数量算出は利用目的に応じた3次元モデル活用の一つとして位置付けられています[1]

数量算出だけを目的に3Dを追加すれば、作業は増える

3次元モデルから体積や面積などを取得すること自体には、十分な利用価値があります。2Dベースの数量と比較すれば、別系統の照査にもなります。

ただし、数量を出せることと、それによって業務全体が効率化することは同じではありません。

従来どおり2Dによる数量計算を行ったうえで、確認のために3Dからも数量を算出するのであれば、照査ルートは増えますが、作業項目も増えます。

一方、一度作った3次元モデルを数量算出だけではなく、構造確認、干渉確認、施工ステップの検討、協議など複数の目的に利用できれば、モデル作成に掛けた人工を複数の場面で回収できる可能性があります。

BIM/CIMの費用対効果を考えるときには、「3次元モデルから何ができるか」だけではなく、一度作ったモデルを、いくつの目的に使えるかという見方が必要なのだと思います。

3Dを作っても、現在は2Dがなくなるわけではない

実際にBIM/CIMへの対応を考える中で、特に気になっているのが2Dと3Dの関係です。

現在の詳細設計では、2次元図面による成果体系がすでに確立しています。平面図、縦断図、横断図、構造図などに、寸法、標高、材料、注記を記載する。図面以外にも数量計算書や報告書があり、それらを相互に整合させて成果を構成します。

そこへ3次元モデルが加わります。

しかし現在は、2Dから3Dへ置き換わったというより、従来の2Dを残したまま3Dが加わっているという場面が多いように見えます。

実際、2026年3月の国土交通省資料に「設計段階における3次元モデルと2次元図面の整合確認方法(案)」が追加されました[1]。これは、現在が2Dと3Dの併存を前提とする移行期であることの表れでもあります。

そして国も、この状態を最終形と考えているわけではないようです。

国も「3Dで代替できる2Dは減らす」方向を示している

国土交通省の第14回BIM/CIM推進委員会資料では、設計段階で作成した3次元モデルが工事契約時には参考資料となるため、3Dを利用して工事を行っても、最終的に2次元図面の修正が必要になる場合があることを課題として挙げています[5]

そのうえで、3次元モデルを工事契約図書に加え、「3次元で代替できる2次元図面は削減」する方向を示しています[5]

これは重要な考え方だと思います。

BIM/CIMによって本当に生産性を向上させるのであれば、従来成果をすべて残したまま3次元モデルだけを追加し続けるのではなく、3次元モデルが従来成果の一部を代替していく必要があります。

当社で3次元モデルを扱いながら感じていた、3Dで正確に持っている情報まで、2Dでも同じように作り続ける必要があるのだろうかという疑問は、少なくとも国が示している将来の方向性と反するものではありません。

むしろ、国も現在を2Dから3Dへの移行途中として捉え、その先の成果体系を模索していると考えた方が近いのかもしれません。

では、2Dと3Dはどう分担するのか

ここまで考えると、単純に「2Dをなくして3Dにすればよい」という話でもないことが分かります。

2次元図面には、長年の設計実務の中で確立されてきた情報伝達手段としての強みがあります。寸法、注記、材料、標高、断面、設計条件などを、決められた形式で一覧性を持って伝えることができます。

一方、3次元モデルには、位置、形状、空間的な関係を直接データとして保持できる強みがあります。

そう考えると、将来的に必要なのは、**「完全な2D成果+完全な3D成果」を二重に作ることではなく、「3Dで持つ情報+2Dで補完する情報」**という役割分担なのではないでしょうか。

3Dで正確に持っている位置や外形を2D側でも同じように管理すれば、設計変更のたびに双方を修正し、その整合を確認しなければなりません。これは情報の二重管理になります。

一方、3Dを正式な設計情報として扱うには、モデルの信頼性、変更管理、閲覧環境、データ交換、責任範囲などを整理する必要があります。だから、すぐに2Dをなくせるわけでもありません。

現在は、まさにこの間にいるのだと思います。

だから今は「効率化」より「手間」が先に見えることがある

BIM/CIMの目的は生産性向上です。それでも、実際にモデル作成に取り組む側から見ると、効率化より追加作業の方が先に見える場面があります。

従来の2D成果体系が残っている。そこへ3Dモデルを追加する。2Dと3Dの整合を確認する。利用目的に応じて属性情報などを整理する。一方、すべてを3D化するわけではないため、モデル化していない情報については、従来の図面や数量計算も残る。

つまり移行期には、従来作業が減る前に、新しい作業が増えます。

この状態だけを切り取れば、「BIM/CIMで効率化するはずなのに、なぜ手間が増えるのか」と感じても不思議ではありません。

ただし、これをそのまま「BIM/CIMには効果がない」と結論付けるのも違うと思います。

3次元モデルによって設計段階の手戻りが減るかもしれない。発注者との協議が効率化するかもしれない。施工段階でモデルを再利用できるかもしれない。維持管理まで情報を引き継げるかもしれない。

その効果が後工程まで含めて発生するのであれば、建設事業全体としての評価は変わります。一方、モデルを作成する人工は設計段階で先に発生します。

負担が発生する工程と、便益が発生する工程が必ずしも同じではありません。

ここも、設計実務側からBIM/CIMの費用対効果が見えにくくなる理由の一つではないかと思います。

BIM/CIMが普及しにくい理由とまでは断定できない

ここについては、慎重に考える必要があります。

「2Dを残したまま3Dを追加するため手間が増える。それがBIM/CIMの普及が進まない原因だ」とまで言うことはできません。

BIM/CIMの普及には、ソフトウェア、データ交換、発注方法、積算、技術者教育、発注者側の利用環境、施工・維持管理への情報連携など、多くの要素が関係します。当社の実務経験だけから、その原因を一つに決めることはできません。

ただ、実際にモデルを扱う立場から、3Dを作ることで従来の何がなくなるのかが見えない状態では、追加人工の方が見えやすいとは感じています。

国が「3次元で代替できる2次元図面は削減」という方向を示していることを考えると、この問題はBIM/CIMそのものの欠点というより、現在が移行途中であることによって生じている問題として考えた方がよさそうです。

実際のBIM/CIM業務では、どの程度の費用が掛かっているのか

国土交通省国土技術政策総合研究所のBIM/CIMポータルサイトでは、直轄のBIM/CIM適用業務・工事について、受注者の見積書を分析した結果を公開しています[8]

2024年11月から2025年5月までに集めた543件のうち、所定の様式で提出された177件が分析対象で、そのうち業務は85件です。業務におけるBIM/CIM関係の直接人件費は100万円以下から1,100万円以下まで分布し、500万円以下が全体の9割を占めています。

「3次元モデルの作成」は83件で、平均138.3万円、中央値113.8万円でした。

同じ資料では、この83件の人工計も集計されており、平均34.8人工、最小4.4人工、最大160.0人工となっています[8]。設計業務委託等技術者単価による人工積み上げを標準とした見積りを集計したものです。

また、費用が発生するのはモデル作成だけではありません。実施計画書・実施報告書の作成は中央値26.7万円、3次元モデルの照査は中央値12.5万円、施工ステップ確認は中央値42.5万円と整理されています[8]

一つのBIM/CIM業務の中には、モデルを作る作業だけでなく、実施内容を計画し、作成したモデルを確認し、利用目的に合わせた検討を行う作業があります。国の実績調査でも、モデル作成が相応の人工を伴う仕事であることが数字として表れています。

ただし、平均34.8人工や中央値113.8万円を、そのまま「BIM/CIMモデルを一つ作る標準」と読むことはできません。分析資料には、モデルの種類、詳細度、モデル数などを考慮していないこと、この結果で費用を確定するものではないことが明記されています[8]

むしろ、この数字から分かるのは、BIM/CIMという名称だけでは作業量も費用も決まらないということです。

何をモデル化するのか。どの詳細度まで作るのか。何に使うのか。属性情報や照査をどこまで含めるのか。それによって必要な人工は変わります。

だからこそ、約114万円という数字を見て「高い」「安い」と判断するより、何を作った費用なのかを見る必要があります。

BIM/CIMへの投資は、ソフトウェア代だけではない

BIM/CIMへの投資は、ソフトウェアや高性能PCの費用だけではありません。操作を習得する時間、過去成果からモデルを作る時間、失敗してやり直す時間、確認や修正を行う時間も、会社にとっては投資です。

社員が一日BIM/CIMの操作を習得すれば一人工です。過去の設計成果を使って3次元モデルを作るのも人工です。うまくいかなかった方法を試し、やり直す時間も人工です。モデルを作った後に確認し、修正し、属性を整理するのも人工です。

実際のBIM/CIM業務として発注されているのであれば、それらは業務原価として考えることができます。

しかし、まだ継続的な業務になっていない段階で行う習熟や検証は、会社から見れば先行投資です。

だから、「もっと高度なことができるようになる」だけを目標にすると、投資の終わりが見えなくなります。

自動化できることと、判断すべきことを分ける

モデル作成に人工が掛かるなら、自動化すればよい。これは自然に出てくる発想です。

当社でも、生成AI、Python、V-nasClairのスクリプト機能を組み合わせ、設計条件や寸法から河川構造物の3次元形状を生成する手法を検証しています。この検証は、技術ノート「V-nasClairスクリプトを媒介としたAI-CIM連携の可能性検証」に残しています。

パラメータを整理し、繰り返し作業を自動化できれば、モデル作成の人工を減らせる可能性があります。

例えば、函体の幅、高さ、延長、胸壁や翼壁の条件などを整理し、それを基に一定の形状を繰り返し作れるようにすれば、毎回ゼロからモデリングする時間は減らせます。設計変更があったときも、条件を入れ直して再生成できれば、修正作業を軽くできる可能性があります。

ただし、ここで自動化できるのは、条件として整理できた範囲です。

一方、3次元形状を自動生成できることと、BIM/CIMに必要な実務全体を自動化できることは別です。

  • 生成された形状が設計条件と整合しているか
  • どこまでモデル化するか
  • 何を属性情報として持たせるか
  • 数量をどこまでモデルから取得するか
  • 2D図面やその他の成果とどう整合させるか

こうした部分には技術者の判断と確認が残ります。自動化で狙うべきなのは、すべてを機械へ任せることではなく、判断を必要としない繰り返し作業を減らすことです。

形状を自動生成できたからといって、そのモデルがそのまま協議、数量、照査、施工、維持管理のすべてに使えるわけではありません。

それでも、モデル作成の中にある定型作業を減らせれば、利用目的や詳細度を考えるための時間を残せます。自動化はBIM/CIM全体を一度に置き換えるものではなく、人工が掛かっている部分を一つずつ軽くする手段として考えた方が現実的だと思います。

先行投資の判断に必要なのは「何人工掛かるか」

会社としてBIM/CIMへの技術投資を判断するには、「何ができるか」だけでは足りません。

構造物の主要な外形を作る。河道や堤防の地形を作る。統合する。属性を整理する。数量を取得する。照査する。必要に応じて詳細を追加する。

それぞれに何人工掛かるのか。どこから急に作業量が増えるのか。どこまで自動化できるのか。自社が対象とする河川・河川構造物分野で、この作業量を把握する必要があります。

例えば、主要な外形を作るところまでは比較的早くても、細部構造や配筋、属性を加えた段階で急に時間が増えるかもしれません。地形と構造物を統合するまでと、数量や施工ステップへ利用できる状態にするまででは、必要な確認も異なります。

国の見積分析で、同じ「3次元モデルの作成」という項目でも人工と費用に大きな幅があることを考えても、自社が対象とする分野での作業量を自分たちで把握しておくことには意味があります[8]

それが分かれば、BIM/CIMへの対応を求められたとき、「3Dはできます」だけではなく、この目的、この範囲、この詳細度なら、どこまで実務支援でき、どの程度の人工が必要かを判断できます。

3次元モデルを作る技術と同じくらい、その技術を何人工で提供できるのかを説明できることが重要なのだと思います。

では、どこまで先行投資するのか

ここが、当社にとって一番難しいところです。

国のBIM/CIMは前へ進んでいます。2026年3月の最新基準では、3次元モデルと2次元図面の整合確認方法が新たに示されました[1]。BIM/CIM推進委員会では、3次元モデルを工事契約図書として扱い、3Dで代替できる2D図面を削減していく方向も示されています[5]

北海道建設部でもBIM/CIM成果を電子納品するためのフォルダ体系はすでに用意され、北海道農政部ではBIM/CIM活用業務の試行も始まっています[3][4]

方向としては、少しずつ3次元データを利用する側へ進んでいます。だから、実際に対応を求められてから初めて3次元CADを触り始めるのでは遅い。

一方で、いつ、どの程度のBIM/CIM対応が必要になるのか分からない状態で、際限なく人工を投入することもできません。

この間のどこに線を引くのか。それが先行投資の判断になります。

当社が現時点で目指しているのは、「BIM/CIMなら何でもできます」という状態ではありません。

  • 求められている利用目的を理解できる
  • 自社で対応できる範囲を判断できる
  • 必要な人工を見積もれる
  • 対応するか、さらに技術投資するかを判断できる

まずは、ここまで到達することを現実的な目標にしています。

そこへ到達したら、いったん投資の速度を落とすこともできます。そして市場や発注条件が変わったとき、必要に応じて再びアクセルを踏む。

技術投資には、アクセルだけでなくブレーキも必要です。

「3Dで何ができるか」から「何を減らせるか」へ

ここまで書くと、BIM/CIMに対して否定的な記事に見えるかもしれません。

しかし、実際に取り組んでみて感じているのは、むしろ逆です。

3次元モデルには、2次元図面にはない可能性があります。

構造物と河川空間を一体として確認できる。複雑な位置関係を共有しやすい。発注者や施工者など、設計者以外の関係者にも情報を伝えやすい。数量算出、施工計画、維持管理、自動化へデータを展開できる可能性もあります。

問題は3次元モデルそのものではありません。

その3次元モデルを作ることで、従来の何が減るのか。

ここが重要なのだと思います。

従来の2次元成果をすべて作ったうえで3次元モデルを追加するだけなら、作成側の人工は増えます。

しかし、3次元モデルで表現できる情報を3Dへ移し、その代わりに従来作業を減らす。設計段階で作ったデータを施工段階で作り直さず、そのまま利用する。さらに維持管理へ引き継ぐ。

そこまで進めば、BIM/CIMの評価は現在とはかなり違うものになるはずです。

国土交通省が目指している「3次元データを基軸とする建設生産・管理システム」も、本来はその方向を目指したものだと理解しています。

そう考えると、現在感じている「BIM/CIMは手間が掛かる」という感覚だけで、将来の価値まで判断するのは早いのかもしれません。

一方、将来の理想だけを見て、現在の費用を考えずに投資を続けることもできません。

現在は、従来の2次元を中心とした設計実務から、3次元データを基軸とする仕組みへ移行している途中にあります。その途中だからこそ、2Dと3Dが併存し、追加作業が発生し、費用対効果が見えにくくなっています。

今回あらためて国の資料まで確認してみると、当社が実務の中で感じていた違和感は、国が目指しているBIM/CIMの方向そのものと矛盾するものではありませんでした。

むしろ、「3Dで何ができるか」から、「3Dによって何を減らせるか」へ。

BIM/CIMが本当に生産性向上につながるかどうかは、これからこの部分がどこまで進むかに掛かっているのではないでしょうか。

当社としても、将来の変化に対応できる位置を維持しながら、実務に必要な技術と、それに掛かる人工の両方を見極めていきたいと考えています。


参考資料・出典

[1]国土交通省「BIM/CIM関連基準要領等(令和8年3月)」

[2]北海道建設部「北海道建設部測量調査設計業務等共通仕様書(令和8年10月)」

[3]北海道建設部「情報共有・電子納品運用ガイドライン【業務編】令和7年4月」(PDF)

[4]北海道農政部「『BIM/CIM活用業務』の試行について」

[5]国土交通省「第14回BIM/CIM推進委員会 資料1」(PDF)

[6]国土交通省「BIM/CIM取扱要領(令和8年3月)」(PDF)

[7]国土交通省「BIM/CIM取扱要領 附属資料1 推奨項目一覧」(PDF)

[8]国土交通省「BIM/CIM適用業務・工事の見積分析結果(令和7年11月版)」(PDF)

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