AIに配筋図を描かせようとして、設計の暗黙知を言葉にすることになった
AIに樋門の配筋図を描かせようとしたところ、鉄筋のピッチだけでは図面を再現できませんでした。設計者が無意識に使っている判断を、AIと一緒に分解している途中経過を紹介します。
配筋図とAIの試行錯誤|第1回
AIに配筋図を描かせようとして、設計の暗黙知を言葉にすることになった
以前、AIを使って樋門の配筋図を自動で描けないか試したことがあります。
当時はGoogle AI Studioへ配筋図や鉄筋加工図を見せ、図面の構造や鉄筋の役割をどこまで理解できるか確認していました。
寸法や鉄筋番号を拾うことはできます。しかし、
- どこで構造物が分かれているのか
- どの線がどの部材に属しているのか
- なぜそのピッチになっているのか
- なぜ一部の鉄筋だけ長さが違うのか
- どこまでが一般的なルールで、どこからが個別条件なのか
という話になると、一気に難しくなりました。
人間は二次元の線を見ながら、頭の中で三次元の構造物を組み立てています。AIへ図面画像を見せただけでは、そこまでの関係を安定して読み取れませんでした。
そのため当時は、配筋図の自動化を無理に進めるより、構造物の三次元化を先に考えた方が現実的ではないかと思っていました。
もちろん、この分野に既存の道具がないわけではありません。市販の樋門設計ソフトには、設計計算から構造一般図・配筋図・数量計算書の作成、3D配筋表示まで備えたものがあります。不等流計算ソフトにも、DXFから断面形状を読み込み、座標を変換して計算へ使う機能があります。
今回の試行は、それらの機能を一から作り直すことが目的ではありません。
既存の構造図、配筋図、鉄筋加工図に含まれる設計者の判断を整理し、自社の作図、数量、検図の工程で、どこまで再利用できるかを確かめるものです。
もう一度、配筋図から掘り始めた
最近、Claude Codeを使いながら、もう一度この問題を検証しています。
まだ配筋図を自動で完成できる段階ではありません。現在行っていることの大半は、
AIが配筋図を作れる状態になるには、何を理解する必要があるのかを整理することです。
例えば川裏翼壁だけでも、底版、側壁、背面壁、本体側の端部、水路の切り欠き、高さが変化する部分、本体との接続部があります。
さらに、形状そのものにも複数のパターンがあります。
人間なら図面全体を見ながら、「ここは水路が接続する部分」「この高さの変化は勾配によるもの」「この壁は本体側なので扱いが違う」と判断します。
ところがAIは、線の形だけを追うと、水路の切り欠きを別の構造として捉えたり、断面同士の位置関係を誤って解釈したりします。
そのたびに構造図、配筋図、鉄筋加工図を照合し、必要に応じてDXFに含まれる座標や寸法へ戻って訂正しています。
AIに図面を読ませているというより、人間が普段どのように図面を読んでいるのかを、一つずつ説明している状態です。
AIが見誤ったのは、線の形だけではなかった
今回の検証では、図面上の形が認識できれば終わりではありませんでした。
例えば同じように見える線でも、底版の外形、壁の端部、鉄筋、寸法補助線では意味が違います。別の断面図に描かれた線が、平面図のどの位置に対応するかも理解する必要があります。
図面の一部だけを切り出すと読めても、図面全体へ戻すと別の部材として結び付けることもありました。
そこで、単に「この図面を読んで」と渡すのではなく、
- 構造物を部材ごとに分ける
- 各図面がどの方向から見たものか整理する
- 同じ部材を示す寸法や鉄筋番号を対応させる
- DXFから取得した座標や寸法と照合する
- AIが推測した部分と、図面から確定できる部分を分ける
という工程へ変えています。
図面を丸ごと理解させるのではなく、構造、寸法、配置ルールへ分解して、確認可能な情報を少しずつ増やす考え方です。
「250mmピッチ」だけでは配筋図にならない
鉄筋も同じでした。
「主鉄筋は250mmピッチ」と聞くと、単純な配置ルールに見えます。しかし、それだけでは実際の配筋図と本数が合いません。
- どの方向へピッチを適用するのか
- 端部のかぶりをどう扱うのか
- 割り切れない端数をどちら側へ寄せるのか
- 開口や切り欠きの周辺をどう処理するのか
- 高さが変わる部分の鉄筋長をどう扱うのか
- 主鉄筋、配力筋、天端筋、幅止め筋で同じ考え方を使えるのか
- 定尺鉄筋や重ね継手をどこで考慮するのか
こうした条件を整理して、初めて図面として成立します。
普段の実務では、基準書、過去図面、経験を組み合わせて自然に判断しています。AIに同じ結果を再現させるには、結論だけでなく「なぜそうするのか」まで言葉にしなければなりません。
設計上の代表長と、施工時の加工は別の話だった
ここは、AIへ説明する過程で、特に書き分けが必要だと感じた部分です。
側壁の高さが勾配に沿って変化すれば、それに合わせて鉄筋一本ごとの必要長も少しずつ変わります。
実際の施工では、それぞれの位置に必要な長さへ鉄筋を加工し、設置します。すべて同じ長さの鉄筋で施工するという意味ではありません。
一方、設計段階で鉄筋重量を算出する際には、近い範囲の鉄筋をまとめ、平均的な長さを代表長として数量を整理する場合があります。
ここでまとめているのは、積算に用いる設計上の数量です。施工時の製作方法を決めているわけではありません。
人間同士なら前提として通じていたことでも、AIへ「近い長さをまとめる」とだけ説明すると、施工でも同じ長さにそろえると解釈する可能性があります。
そのため、
- 設計図として何を示しているのか
- 数量計算では何を代表値としているのか
- 施工・製作の段階では何が別途必要なのか
を分けて説明しなければなりません。
配筋図を自動化しようとしていたはずが、設計、積算、施工の境界まで言葉にする作業になっています。
なお、具体的な数量整理の方法や判定条件は、構造条件や図面によって変わります。今回の検証でも、処理の核心となる細かなルールをそのまま外へ出すのではなく、どの段階の判断なのかを整理することを優先しています。
計算で再現できる部分と、人に残す判断を分ける
すべてが分からないわけではありません。
構造図の寸法と整理したルールから計算し、実際の配筋図や鉄筋加工図と比較すると、再現できる部分も出てきました。
- 部材厚とかぶりから寸法を逆算する
- 配置範囲とピッチから本数を計算する
- 鉄筋の展開長を計算し、加工図と照合する
- 一定の条件に従って鉄筋を配置する
計算結果と既存図面が一致すると、その部分はルールとして再利用できる可能性があります。
一方で、端数をどちら側へ寄せるかなど、人の設計判断が残る部分もあります。過去図面と同じ処理に見えても、構造条件が違えば同じ判断を使えないこともあります。
そこまで無理に自動化する必要はないと考えています。目指しているのは自動設計ではありません。
人が判断すべき部分は人に残し、その前段の計算、作図、照合を機械へ任せる。それだけでも、現在すべて手作業で行っている工程を減らせる可能性があります。
樋門は、胸壁、翼壁、底版、函渠、ゲート周辺、水路の切り欠き、標高差などが重なり、現場条件によって形状も変わります。完全自動化が難しい構造物だからこそ、20%でも30%でも定型作業を減らせれば意味があるかもしれません。
ただし、開発に何百時間もかけて年間で数時間しか短縮できないのであれば意味はありません。今は費用対効果も見ながら、「ここまでは再現できる」「ここから先は人の判断が必要」という境界を確認しています。
作図のルールは、検図にも使える
もう一つ分かってきたのは、配筋図を作るために整理したルールは、逆方向にも使えるということです。
例えば、
- この壁厚なら、かぶりを考慮した寸法はこの値になる
- この配置範囲とピッチなら、本数はこの程度になる
- この径と曲げ条件なら、展開長はこの値になる
というルールがあれば、既存図面がその条件と整合しているかを確認できます。
作図のロジックは、そのまま検図のロジックにもなり得ます。
もちろん、AIが「問題なし」と答えれば、そのまま採用できるわけではありません。今回の検証でも、AIの解釈は何度も間違いました。最終的な照査は人が行う必要があります。
それでも、人が一から確認する前に、「計算と合っている箇所」「合わない箇所」「人の判断が必要な箇所」を整理できれば、完全な自動作図より先に実務で使える可能性があります。
配筋図から始めた知識が、3Dや数量にもつながる
配筋図を作るには、その前に構造物の形を理解しなければなりません。
底版の長さ、壁厚、標高、勾配、切り欠き、部材同士の位置関係を、数値とルールとして整理する必要があります。
この情報を使えば、3D CAD上へ形状を作る処理や、コンクリート体積・型枠面積を算定する処理にもつながる可能性があります。
以前は「配筋図の自動化は難しいから、3D化を先に進めた方がよい」と考えていました。
今は、配筋図を理解するために整理している知識そのものが、3D化、数量算定、作図支援、検図支援の共通基盤になるかもしれないと考えています。
完成するかどうかは、まだ分かりません。樋門は個別条件による違いが大きく、一つの事例で成立した処理が別の樋門へそのまま使えるとは限りません。
時間と費用を見ながら、途中で方向を変える可能性もあります。
ただ、AIに図面を描かせようとしたことで、人間がどのように構造物を理解し、図面を作り、確認しているのかを分解することになりました。
自動化の完成品はまだありません。それでも、設計者の頭の中にあった暗黙の判断を、再利用できる形へ変える作業は始まっています。
次の記事では少し視点を広げ、この記事を書いた2026年に、CAD・BIM・構造分野のAI活用がどこまで進んでいたのかを整理します。